連日、開園前から行列ができるほどの熱狂に包まれているパンチくんのいる市川市動植物園。この事態に、現場の最前線で対応し、SNSを通じてファンと真摯に向き合い続けているのが、同園の安永崇課長です。
地元で育ち、市川市で働きたいという気持ちで市職員に。市川市中央図書館長などを経て現職という経歴を持つ安永課長に、今回のブームの裏側と、情報発信に込めた想いを聞きました。

最優先は「動物たちのルーティン」を壊さないこと
パンチくんの姿がSNSなどで発信され、空前のブームを呼んだのは2月初旬。その直後の2月の三連休は大変な混雑が予想されました。市川市動植物園は、全体でも総面積6万平方メートル(東京ドーム約1.3倍)ほどで、動物園エリアはさらにその半分以下。そこに、多くの人が押し寄せたら…。
安永課長が何より腐心したのは、「日常の維持」だったといいます。
安永課長:「一番に考えたことは、とにかく動物たちのルーティン(習慣)を壊さないことです。えさの時間、散歩の時間、運動量…。パンチをはじめ、すべての動物たちにとって普段通りの生活をしてもらうことに何より腐心しました」
大きな混乱が起きないようにするのは当たり前ですが、それ以上に、「日常の維持」を何よりも大切にしたのだそうです。
安永課長:「動物福祉を大切にする市川市動植物園として、優先すべきは動物に負担がかからないこと。その上で、お客さまにいかにスムーズに、楽しく観覧していただくかを考え、スタッフ総力でルール作りや交通誘導にあたりました」
現場で起きた課題に対し、即座に改善案を出し、それを随時SNSで発信していく姿勢。その根底には、徹底した透明性の確保がありました。

「広報戦略」としてのSNS、現場の熱意を繋ぐ
たくさんの人が詰めかけた三連休、常に最新の情報を配信し続けた市川市動植物園の公式Xの更新を一身に背負ったのは、安永課長自身でした。「飼育員には普段通りの業務(動物のケア)をさせたい」という考えからでした。
実は安永課長、もともと地元の飲食店やイベントを紹介する個人的なSNSの運用経験があり、その知見が今回の「広報戦略」に直結したといいます。
安永課長:「スタッフみんなが対応に追われる中、迅速にSNSの対応ができるのが自分しかいなかったということもあって今回の混雑状況やパンチを巡る配信は私自身が行いました」
市川市動植物園の公式Xは普段からまめに情報が配信されていますが、通常は動物たちから一番近い飼育員やスタッフが撮影した動画や写真を配信しているそう。
安永課長:「投稿への反応は飼育員も非常に気にしていて、『いいね』が多いと励みになるようです。それがまた、次の面白い投稿に繋がるという良いサイクルが生まれています」
図書館長時代の経験が「動物園の活性化」に結びついた
1973年、市川市生まれ。地元への愛から市職員となった安永氏。そのキャリアの中でも、特に「図書館長」を務めた3年間が大きな転換点だったと振り返ります。
安永課長:「静かな図書館を『賑やか』にしたいと思い、さまざまなイベントを仕掛けました。図書館は無料の施設ですから、使わなきゃもったいないんですよ。その魅力を発信してきた経験が、今の動物園でのクラウドファンディングや活性化の取り組みに生きていると感じます」
「市民目線・現場主義」が貫く、親しみやすい情報発信
自治体の公式Xのイメージを覆す利用者との距離が近いSNS投稿。その秘訣を尋ねると、安永課長は今の田中甲市長が掲げる「市民目線・現場主義」という言葉を挙げました。

安永課長:「SNSを通じて、利用者の方が困ることがないように、快適に楽しんでいただけるように…そこを気遣いながら発信を続けてきました。ときには『お役所的でない』というお声もありますが、皆さまに親しみを持っていただける動物園作りができたのであれば、非常に嬉しく思っています」
■安永課長のSNSはこちら
Instagram: yasunaga_ichikawa(T.Yasunaga)
X:市川市の美味しいもの(@ichikawa_oishii)
ライターコメント
安永課長のインタビューで確信したのは、パンチくんブームは決して〝偶然〟ではないということです。動物福祉という「守り」を固めつつ、市民が何を求めているかを即座に察知して発信する「攻め」の広報。 特に「図書館は使わなきゃもったいない」という言葉に、安永課長のパブリックサービスへの愛を感じました。その情熱が、静かだった図書館のみならず、動物園にも新しい風を吹き込んでいるのでしょう。
<ライタープロフィル>ゆんち
2004年に産経新聞社へ入社。静岡、仙台での事件取材を経て、東京社会部では厚生労働省を担当、派遣労働問題などの社会課題を深く掘り下げる。また、特異なキャリアとして法廷画家を兼務し、数多くの法廷画を手掛けてきた。その後、産経新聞社が発行していたタブロイド紙「SANKEI EX」にてブランド、旅、食をテーマとした執筆活動を展開。南アフリカやオーストラリアなど世界各国を取材で巡るほか、臨時特派員として南太平洋のキリバス共和国への駐在経験も持つ。J-WAVE「TOKYO MORNING RADIO」にて、週1回おすすめニュースを3年間にわたり担当。
現在は2児の母となり、これまでの取材経験に加え、教育、健康、ライフハックへと関心の幅を広げている。「趣味を仕事に!」をモットーとする自称「脱力系ライター」。釣り、温泉、グルメ、そして海を眺めてぼーっと過ごす時間を愛する旅人でもある。長年、酒と旅と釣りを友としてきたが、現在は期間限定で禁酒中。新商品から旅、ファッション、グルメまで、自身のアンテナに触れたトピックを独自の視点で発信している。












