「うわっ、なにこれキモち悪う~!」展示室に足を踏み入れた瞬間、思わずそんな声が漏れてしまうかもしれません。4月29日から東京・六本木の森美術館で開催中の「ロン・ミュエク」展。オーストラリア出身の現代美術作家による、日本では18年ぶりとなる大規模個展です。最大の魅力は、なんといっても「異常なほどのリアリティ」と「バグったサイズ感」。一足早くこの個展に足を運んだemogram編集部が、この「気持ち悪いほど美しい」極上のアート体験をご紹介します。
夢に出そう!床に転がる「巨大なおじさんの顔」
「ロン・ミュエク」展は「カルティエ現代美術財団」と森美術館による共同主催。パリでの2023年の開催を皮切りに、ミラノとソウルを巡回し、今回の東京・六本木の森美術館での開催に至りました。
まず、会場で私たちの度肝を抜くのがこちらの作品です。

ロン・ミュエク《マスクⅡ》(2002年) 個人蔵 展示風景:「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館、(2025年) 撮影:ナム・キヨン 画像提供:カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館
…いや、大きすぎませんか。近寄って見てみると、皮膚のシワ、うっすら開いた口元の質感、無精ヒゲの1本1本から毛穴に至るまで、人間を細胞レベルで完全再現しています。
あまりにもリアルすぎる上に、サイズ感が完全に狂っている(しかも顔しかない)ため、脳が「これは現実?作り物?」とパニックを起こします。この不気味さとユーモアのギリギリを攻めるセンスこそが、ロン・ミュエクの真骨頂です。
リアルすぎるがゆえの「スケールの魔法」
彼の作品はすべて、人間を驚くほど精緻に再現しながらも、「実物とは絶対に異なるスケール(極端に巨大、または極小)」で作られています。

ロン・ミュエク《イン・ベッド》(2005年) 所蔵:カルティエ現代美術財団 展示風景:「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館(2025年) 撮影:ナム・キヨン 画像提供:カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館
たとえばこちらの《イン・ベッド》という作品。実際の人間をはるかに超える巨大なスケールで、真っ白なベッドに女性が横たわっています。布団のシワや女性の肌は本物そっくりで、「フカフカのベッドに一緒に飛び込みたい…」と思うほどの心地よさがある反面、彼女のどこか遠くを見つめる不安げな表情が、巨大化することで圧倒的な迫力を持って私たちに迫ってきます。

ロン・ミュエク《チキン/マン》(2019年) 所蔵:クライストチャーチ・アートギャラリー/テ・プナ・オ・ワイウェトゥ(ニュージーランド)展示風景:「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館、(2025年) 撮影:ナム・キヨン 画像提供:カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館
かと思えば、こちらはパンツ一丁の「小さなおじさん」が鶏と睨み合っている《チキン/マン》。日常のふとした光景も、ミニチュアサイズに縮小されることで、彼らの哀愁や孤独、あるいは滑稽さが浮き彫りになります。
違和感が「人間の内面」を想像させる
ミュエクの作品は単にリアルであるだけでなく、スケールの操作によって見る側の感情を揺さぶるのです。小さすぎても大きすぎても、私たちはそれを現実として受け取ることができず、その違和感の中で、人物の内面や状況をより強く想像することになるのかもしれません。
ただの「そっくりな蝋人形」なら「へー、すごいね」で終わりますが、サイズが狂っていることで、私たちは作品の前に立ち止まり、「この人は何を考えているんだろう?」と、穴のあくほど(毛穴を)見つめてしまうのです。

ロン・ミュエク《マス》(2016-2017年) 所蔵:ビクトリア国立美術館(メルボルン)、2018年フェルトン遺贈 展示風景:「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館(2025年) 撮影:ナム・キヨン 画像提供:カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館
会場にはほかにも、人間と比較して絶望的なサイズ感を誇る巨大な頭蓋骨の彫刻の山《マス》など、視覚のゲシュタルト崩壊を起こしそうなヤバい作品が目白押しです。
ミュージアムショップでは、《チキン/マン》などをモチーフにしたインパクト大のTシャツやノートも販売中です。

「キモい、でもすごい、やっぱりちょっとキモい!」とザワザワする展示の余韻を、ぜひ自宅にも持ち帰ってみてください。
■ロン・ミュエク
2026年4月29日(水・祝)~9月23日(水・祝)
主催:森美術館、カルティエ現代美術財団
展覧会公式サイト https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/ronmueck/
■観覧チケットプレゼント!
今回紹介した「ロン・ミュエク」展の観覧チケットを、抽選でペア5組(計10名様)にプレゼントします。ご希望の方は、「産経iD」応募フォームよりご応募ください。
※応募には産経iD会員への登録が必要です。
ライターコメント
「不気味の谷」という言葉がありますが、ロン・ミュエクの作品の違和感は、まさにその「不気味の谷」の谷底といった感じです。特に《イン・ベッド》の女性の、あのちょっと疲れたようなリアルな表情…気持ち悪いのに目が離せなくなります。そして何より、巨大な顔の彫刻! この強烈な違和感…これこそアートなのでしょう。
<ライタープロフィル>ゆんち
2004年に産経新聞社へ入社。静岡、仙台での事件取材を経て、東京社会部では厚生労働省を担当、派遣労働問題などの社会課題を深く掘り下げる。また、特異なキャリアとして法廷画家を兼務し、数多くの法廷画を手掛けてきた。その後、産経新聞社が発行していたタブロイド紙「SANKEI EX」にてブランド、旅、食をテーマとした執筆活動を展開。南アフリカやオーストラリアなど世界各国を取材で巡るほか、臨時特派員として南太平洋のキリバス共和国への駐在経験も持つ。J-WAVE「TOKYO MORNING RADIO」にて、週1回おすすめニュースを3年間にわたり担当。
現在は2児の母となり、これまでの取材経験に加え、教育、健康、ライフハックへと関心の幅を広げている。「趣味を仕事に!」をモットーとする自称「脱力系ライター」。釣り、温泉、グルメ、そして海を眺めてぼーっと過ごす時間を愛する旅人でもある。長年、酒と旅と釣りを友としてきたが、現在は期間限定で禁酒中。新商品から旅、ファッション、グルメまで、自身のアンテナに触れたトピックを独自の視点で発信している。






