ニホンザルのオスは赤ちゃんを抱くことはないとされるなか、前例を覆して赤ちゃんのタイヨウを抱っこしていた先代のボスのネッシン=YouTube「高尾山さる園・野草園【公式】」より

オスは子育てしないはずなのに… 高尾山さる園「ネッシン」の赤ちゃん救出劇

By - emogram編集部・ゆんち
アニマル

東京都八王子市「高尾山さる園・野草園」の副園長、堅木杏美さんによれば、ニホンザルのオスは子育てをしません。群れの中で赤ちゃんを抱き、守るのはメスである母ザルの役目です。高尾山さる園には、そんな常識を打ち破った一頭のオスザルがいました。先代ボスだった「ネッシン」です。

助けを求める赤ちゃんザルの泣き声

堅木さん:「あるとき、『タイヨウ』という子ザルのお母さんザルが、サル同士の大きなケンカに巻き込まれてしまったんです」

その事件が起きたのは、今から約2年前の夏でした。堅木さんによれば、母ザルは突然のケンカに巻き込まれ、サル山内での位(序列)が低かった母ザルは身の危険を感じ、その場に赤ちゃんを置いて逃げてしまったといいます。

堅木さん:「赤ちゃんはサルたちのケンカの中に置き去りにされて大泣きしているけれど、お母さんは周囲が怖くて助けに行けない…という状況になりました」

助けを求めて泣き続ける、小さな赤ちゃんザル。しかし、駆けつけたのは母親ではありませんでした。

ニホンザルのオスは赤ちゃんを抱くことはないとされているなか、前例を覆してタイヨウ(中央)を抱っこしていた先代のボスのネッシン(右)=YouTube「高尾山さる園・野草園【公式】」より

目が見えないボスが、走った

堅木さん:「その当時、ボスだったネッシンは、すでに高齢でほとんど目が見えていない状況でした。しかし、赤ちゃんの泣き声を聞いてトラブルが起きている中に走っていって、大泣きする赤ちゃんのタイヨウをぎゅっと抱っこして守ってあげたんです」

堅木さんによれば、ネッシンは29歳くらいだったといいます。すでに視力を失っていたネッシンは、姿を見ることができないまま、声だけを頼りに、タイヨウのもとへと駆けつけ、そして抱っこしたのです。

ニホンザルのオスは赤ちゃんを抱くことはないとされるなか、前例を覆して赤ちゃんのタイヨウを抱っこしていた先代のボスのネッシン=YouTube「高尾山さる園・野草園【公式】」より

堅木さん:「本当に優しいんだなあ…と感じました。そもそも、オスザルは赤ちゃんを抱っこすることは少ないです。よその赤ちゃんを抱っこして守るなんて行動は、長年飼育員をしていますが、ネッシン以外では見たことがないのです」

長年、サルのことを見続けてきた堅木さんでも「見たことがない」といいます。それほどに、ネッシンのこの行動は異例だったようです。

見えなくても、離さなかった

実は当時、ネッシンがタイヨウを抱っこして守っている姿は動画で残っています。タイヨウを胸に抱いて守るネッシン、しかし、周囲のサルは執拗にタイヨウにちょっかいを出し続けます。

堅木さん:「ネッシンはボスでしたが、晩年は目が見えなくなって、周りのサルたちは『どうせネッシンには見えないだろう』と、少し見くびっていたのかもしれません」

みんなから守るため、泣いていた赤ちゃんのタイヨウを抱いた先代のボスのネッシン(右)=YouTube「高尾山さる園・野草園【公式】」より

それでもじっと耐え、ずっとタイヨウくんを守り続けるネッシン。

堅木さん:「タイヨウ自身の位(サル山内での序列)が低かったことも関係しているかもしれませんが、サルは本当に赤ちゃんが大好きなので、みんな触りたがるということもあります」

最後は、駆けつけた母ザルが無事にタイヨウを連れて帰りました。そしてこの行動は、一度きりではなかったといいます。

堅木さん:「ほかのサルのちょっかいはこの後もあったのですが、ネッシンがタイヨウを守った行動は、飼育員が確認できている限りで3回ほどありました」

タイヨウは、少し怒られやすく、いじられやすい体質のようなところがあったといいます。母ザルがほかのサルに怒られてパニックになるたび、ネッシンは何度も助けに向かったのです。

ボスのネッシンに守られた赤ちゃんのタイヨウ(中央の上)は、その後お母さんの元に戻って友達と過ごしていました=YouTube「高尾山さる園・野草園【公式】」より

あの日の赤ちゃんは、今

ネッシンに守られた小さな命は、今も元気に育っています。

堅木さん:「最近はとてもやんちゃに成長していて、人間を見かけると『ピー!』と大きな声で怒ってくるような、元気な子になっています」

目の見えないボスに守られていたことを、タイヨウが覚えているかどうかは分かりません。それでも、あの日確かにあった小さな体温は、今の元気な姿につながっているのかもしれません。

あのとき子ザルだったタイヨウも、いまでは大きくなりました=写真提供:高尾山さる園・野草園

堅木さん:「本当に珍しいことです、ほかの動物園のサル山でも私は聞いたことがありません。ニホンザルのオスは子育てをしませんので、本当にネッシンが特別な、優しいサルだったのだと思います」

■YouTube「高尾山さる園・野草園【公式】」:【高尾山さる園】子供にも慕われるネッシンさん

ライターコメント

サル山のボスは、一番の力持ちがなるのだと思っていましたが、そんなに単純な話ではないようです。ネッシンのように優しさでほかの仲間に慕われるタイプもいれば、メスからモテモテで体格がよく、いわゆる「サルたらし」の現在のボス・トロロのようなタイプもいるようです。サル山の社会を見ていると、本当に人との共通点も多くて、日本中のサル山をめぐってじっくり観察したくなりました。

<ライタープロフィル>ゆんち

2004年に産経新聞社へ入社。静岡、仙台での事件取材を経て、東京社会部では厚生労働省を担当、派遣労働問題などの社会課題を深く掘り下げる。また、特異なキャリアとして法廷画家を兼務し、数多くの法廷画を手掛けてきた。その後、産経新聞社が発行していたタブロイド紙「SANKEI EX」にてブランド、旅、食をテーマとした執筆活動を展開。南アフリカやオーストラリアなど世界各国を取材で巡るほか、臨時特派員として南太平洋のキリバス共和国への駐在経験も持つ。J-WAVE「TOKYO MORNING RADIO」にて、週1回おすすめニュースを3年間にわたり担当。

現在は2児の母となり、これまでの取材経験に加え、教育、健康、ライフハックへと関心の幅を広げている。「趣味を仕事に!」をモットーとする自称「脱力系ライター」。釣り、温泉、グルメ、そして海を眺めてぼーっと過ごす時間を愛する旅人でもある。長年、酒と旅と釣りを友としてきたが、現在は期間限定で禁酒中。新商品から旅、ファッション、グルメまで、自身のアンテナに触れたトピックを独自の視点で発信している。

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