ボルネオの深い森で、たった1頭で倒れていたマレーグマの赤ちゃん「マンジャ」。死の淵をさまよっていた小さな命が、どのようにして自力で木に登るほど回復したのか。ボルネオマレーグマ保護センター(BSBCC)での2カ月間にわたる成長記録をまとめました。
1. 絶望的な状況での発見と「24時間の執念」

2026年2月、マレーシア・ボルネオ島のプランテーションで、これまで保護された中でも最小クラスとなる生後約3カ月のマレーグマが発見されました。本来、この月齢の幼獣が母親と離れて一頭で行動することはありません。現地の調査では、母親が密猟の犠牲となり、マンジャが残された可能性が高いとみられています。
保護直後のマンジャは深刻な栄養失調と脱水症状に陥っており、いつ命の灯火が消えてもおかしくない状態でした。さらに、幼い個体にとって致命傷となりかねない低血糖症や激しい下痢の症状も…。スタッフはインキュベーター(保育器)を稼働させ、24時間体制で容体を見守りました。差し出されたミルクを必死に飲み、生きようとするマンジャ…。スタッフとマンジャの一進一退の攻防が続きました。
ライター・ゆんちの視点
母親を失い、甘えたい盛りにたった1頭で死の淵をさまよったマンジャ。スタッフは懸命に見守り、いつか森で生きていくための「強さ」を育みました。日本からも、この尊い命にエールを送りたいと思います。
【詳細記事】 母を奪われ瀕死の状態で発見…生後3カ月のマレーグマ「マンジャ」を救った執念の24時間ケア
2. 奇跡の回復 産毛から「クマらしさ」あふれる姿へ

スタッフによる献身的なケアが功を奏し、保護から約1カ月が経過。マンジャは、自分の足で周囲を歩き回れるまでに回復しました。また保護当時は弱々しかった産毛も、マレーグマ特有の艶やかな毛並みへと生え揃っていきました。
この時期、マンジャは初めて外の世界へ足を踏み出しました。それまではインキュベーターの中で守られていましたが、ボルネオの土の感触を確かめ、鳥やサルの声に驚きながら周囲を見渡すまでに成長したのです。地面の匂いを嗅ぎ、木を掘るような仕草を見せ始めたことは、マレーグマとしての野生の本能が目覚めていることを示していました。
ライター・ゆんちの視点
「甘えん坊」を意味する名の通り、本来は母グマに寄り添いたかったはずのマンジャを、今は現地のスタッフが支えています。インキュベーターの中にいた姿を知る人にとって、この回復ぶりは奇跡的だったと思います。
【詳細記事】 母を失ったボルネオマレーグマ「マンジャ」が死の淵から見せた驚異の回復
3. 野生復帰を目的とした「代理母」によるリハビリ
マンジャの最終的な目標は、人間のもとで一生を過ごすことではなく、ボルネオの森へと帰ることです。そのため、保護センターでは「代理母」役を務めるスタッフとともに、毎日、森の中を散歩するリハビリが行われています。これはマンジャにとって、森の植物の匂いや音、地面の起伏を五感で覚え、生存能力を高めるための重要なトレーニングです。
ここでは「人馴れ防止」を徹底させているといいます。マンジャと接触できるのは特定の担当スタッフ3人のみ。これは、特定の人間だけを「仲間」と認識させ、それ以外の人間を「警戒すべき存在」として覚え込ませるためです。野生に帰った際、密猟者や人間に近づいて殺害されるリスクを最小限に抑えるのです。
ライター・ゆんちの視点
スタッフはマンジャを温かく守る「母」であると同時に、野生へと突き放す「導き手」でもあります。この絶妙な距離感は、マンジャが森で独り立ちするためには欠かせないのです。
4. 自立の証、初めての「木登りデビュー」

2026年4月、マンジャは大きな一歩を踏み出しました。保護当時2.2キロだった体重が4.2キロへ倍増し、体力が充実してきたマンジャ。自力で高さ約3メートルの木に登るまで成長しました。マレーグマは一生の多くを樹上で過ごすため、野生に戻るために木登りが欠かせないのです。
また、保護センターではマンジャ以外にも多くのマレーグマが紹介されていますが、例えば常に困ったような表情を見せる「ルーディー」など、1頭1頭の顔立ちが個性的なのも魅力です。興味のある人は、ぜひ公式Xを覗いてみてください。マンジャがいつかボルネオの巨木のてっぺんから森を見下ろすその日まで、この小さな「森の住人」の物語は続いていきます。
ライター・ゆんちの視点
以前は個体の見分けがつかないと思っていましたが、個性を知ることで一気に「推し」が増えてしまいます。マンジャがいつかスタッフを振り返ることなく森へ消えていくその日まで、見守り続けたいと思います。
【詳細記事】 体重は2倍、そして木の上へ マレーグマの赤ちゃん・マンジャが初めて「自力」で登った日
■ 協力・画像提供:ボルネオマレーグマ保護センタージャパン(BSBCC Japan)






