2月28日(土)、東京・新宿の芳林堂書店 高田馬場店8階イベントスペースにて、「KukuriNezi(ククリネジ)」が開催されました。
本イベントは、ミステリ作家の森晶麿さんが主宰する「ねじの市」プロジェクトの一環であり、文学賞受賞歴を持つ、あるいは商業作品を刊行しているプロ作家のみが参加できる自作即売会です。今後も2か月に一度の開催が予定されており、二回目は4月25日(土)に開催。芳林堂書店によるプロ作家ZINE「ワッシャー」なども話題を呼んでいます。
2月のイベントで大きな見どころのひとつとなったのが、覆面作家である舞城王太郎さんのファンであることを公言している新鋭作家・金子玲介さんと、森晶麿さんによる、舞城王太郎さんにまつわるトークイベントでした。
舞城王太郎さん本人は覆面作家であるため、三島由紀夫賞の授賞式(2003年)の欠席に続いて今回も不在だったにもかかわらず、金子玲介さんらの舞城トークを聴くために予約抽選で満席となり、当日は立ち見が出るほどの盛況ぶりでした。本記事では、このトークイベントの模様をお届けします。
舞城王太郎の伝説作品『ディスコ探偵水曜日』が復刊
このトークイベントは、絶版となっていた代表作『ディスコ探偵水曜日』の復刊を記念して行われました。

今回の再販は、芳林堂書店を運営する株式会社書泉による絶版本の再販企画「芳林堂書店と、10冊」によって行われました。
『新潮』2005年5月号に第一部が掲載され、その後、第二部・第三部が発表されたのち、2008年に、第四部の書き下ろしを含めた単行本が発売されました。
表紙デザインを手がけたのは、イラストレーターのKEIさん。
再販にあたっても、特典のひとつである、3冊収納BOXの装丁に、単行本発売時の書き下ろしイラストが採用され、より『ディスコ探偵水曜日』の世界観に没入できる仕上がりとなっています。
『ディスコ探偵水曜日』は、舞城王太郎さんの代表作であると同時に、夢野久作の代表作『ドグラ・マグラ』などに連なる「三大奇書」の系譜において、「第五の奇書」として挙げられることも多く、ミステリ好きの間でも呼び声の高い現代小説です。
復刊に至った経緯と、舞城王太郎さん・金子玲介さんのコメントや復刊宣言
復刊のきっかけは、書店員すら気づいていなかったある盲点でした。
『ディスコ探偵水曜日』は現在も電子書籍で販売されている名作中の名作。舞城王太郎さんの代表作として語られることが多いものの、そのイメージがあまりにも鮮烈なため、「紙の書籍が品切れ状態である」ことに誰も気づいていなかったそうです。
その後、さまざまな復刊施策を進める中で、この事実を知った担当者が、「何としても復刊させなければ」と強く決意したことで、今回のプロジェクトが実現しました。
今回の復刊にあたって、書店員の方や新潮社の元担当さんが熱いコメントを寄せるなか、覆面作家の舞城王太郎さんは「 Again, Truth Is A Mirror Ball. Thank You.」という一言を発表しています。
それに対し、業界内で強火ファンや専門家と称される金子玲介さんは「小説の自由と、愛の強靭さと、人間の底知れなさを舞城文学から徹底的に叩き込まれ、私は作家になりました。『ディスコ探偵水曜日』は世界中の闇も光もすべて吞み込んだ、SFミステリの記念碑的傑作であり、私の聖書です」 というコメントを寄せ、舞城読者の期待を高めるとともに、今回の再販企画を大いに盛り上げました。
そして今回、公式による「あらゆる読書体験の中で『舞城王太郎を読む』というのは、その行為にしかない稀有な体験です。特に代表作であり、今後も忘れられることのない本作を、再び“リアルな鈍器”として紙の本で皆様のもとへお届けいたします」という復刊宣言のもと始まった本企画は、サイン特典付きのオンライン予約が早期に完売し、芳林堂書店店頭でも予約申し込みが相次ぐなど、大きな反響を呼びました。
金子玲介×森晶麿が語る、舞城王太郎作品『ディスコ探偵水曜日』
金子玲介さんは、1993年生まれ。公認会計士の仕事のかたわら、舞城王太郎さんと同様に「メフィスト賞」を受賞し、『死んだ山田と教室』(講談社)でデビュー。SFやミステリ作品をはじめ、純文学的な魅力も併せ持つ作品など、精力的に創作活動を続けています。
イベント主宰の森晶麿さんも加わり、二人のミステリ作家による「舞城王太郎というミステリ」をめぐる濃密な対話形式のイベントが開かれました。
この貴重なトークイベントの模様を一部レポートします。

全体的に、とにかく両作家の舞城作品の読み込みの深さと、SF・ミステリ作家ならではの視点に、圧倒されました。
そして、やはり舞城王太郎さんの覆面作家らしさにも話題が及びました。お二人とも実力派でありながら、「舞城王太郎先生にはいまだお目にかかったことがない」というエピソードも語られました。
金子玲介さんのデビュー当時、「舞城王太郎先生にご挨拶しておきますか」と関係者に問われ、「三日三晩、真剣に考えた末、お断りした(理由は後述)」という背景も披露されました。さらに、森晶麿さんからは、長年ネット上で囁かれてきた舞城王太郎さんと他作家との同一人物説にまつわる編集者とのやり取りの秘話も明かされました。
そして、お二人からの「もしかして、今日、この会場のなかのどこかにいるかもしれませんねえ…?」というミステリのお決まりのような展開に、思わずドキッとまわりを見渡してしまいそうになる人の姿も。
そして、非常に専門的な指摘や、鋭い推理などを交えながら、ユーモラスなやりとりが展開されました。
なかでも、『ディスコ探偵水曜日』における、「一堂に会した大勢の名探偵達が、推理を間違えるたびに、箸が目に突き刺さってしまうはめになるという突拍子もないが舞城作品らしい象徴的な描写」の話になった時には、会場も大いに沸きました。
大爆笑するお二人の姿を前に、集った舞城読者達も「あれね・・・!」といった様子で、舞城王太郎さんを介した一体感に会場が包まれました。(ちなみに、『ディスコ探偵水曜日』には、『大爆笑カレー』さんなどのいずれもユニークな名前の“名探偵”たちが多数登場し、それぞれの推理と世界観を繰り広げます)
そうしたやりとりを通じて、舞城作品における、このようなシーンに見られる「真実への辿りつけなさ」といった指摘も、作品同士を横断した読解として強く印象に残りました。
金子玲介さんのお話の中で、ひときわ興味深かったのは「舞城王太郎先生は、小説を“線”ではなく“面”として描く」という見方です。
一文の中で時間経過を処理する構造や、改行の少なさ、現在形の多用といった文体的特徴が、物語の奥行きあるいは文脈表現を超越し、時には入れ子状に何層にも重なりあう世界観をどのように生み出しているのかが具体的に語られました。
この現在進行的な時間のとらえ方は、金子玲介さんの著作である『死んだ山田と教室』において、“死んだはずの山田”がスピーカーからみんなと話し続けている設定において踏襲されているそうです。生と死の境界を揺るがすその感覚は、トーク内で語られた舞城作品の読解ともどこか共鳴するようにも思えます。
また、一般に「ミステリはそのままでは純文学にならないが、SFはそのままで純文学になり得る」という言説がありますが、森晶麿さんは、そうしたミステリ観に批評的な立場から、「それを超克する可能性が『ディスコ探偵水曜日』にあるのではないか」と示唆しました。
そして、金子玲介さんからは、単なる技巧や文体の模倣ではなく、「舞城王太郎先生および作品の根底にある“光”のようなものを継承したい」という言葉も語られました。その読解を保ち続けるために、先述の通り、あえて舞城王太郎さん本人には会わないというスタンスも含め、舞城王太郎さんへの愛や敬意とともに、金子玲介さんの作家としての姿勢が強く感じられます。
さらには、舞城王太郎作品のあいだには、キャラクターのスピンオフにとどまらず、テーマやモチーフ、さらには言い回しに至るまで、作品同士を横断するような連なりが見られることにも触れられました。
なかでも、金子玲介さんは「『
トークイベントの終盤には、質疑応答の和やかな時間も設けられました。森晶麿さんからの「金子先生と舞城先生との合作、ぜひ期待していますよ」という呼びかけに、照れる金子玲介さんのお姿も印象的で、会場は濃密な余韻に包まれたまま大団円を迎えました。
金子玲介さんからのメッセージ
金子玲介さんより、読者のみなさまにも、メッセージをいただきました。
金子玲介さん:「私は舞城王太郎さんの作品と出会ってから、この世界をより深く愛せるようになりました。皆さまにもぜひ、舞城さんの作品を通し、世界を慈しんでいただきたいです」
舞城王太郎さんと、金子玲介さんのこの世界への愛情深さが感じられますね!
森晶麿さんとのQ&A
森晶麿さんより、いくつかの質問にお答えいただきました。
質問:トークイベント中に、“金子先生と舞城先生との合作”への期待を見せる声もありましたが、森晶麿さんご自身が、舞城王太郎さんとの合作をされるなら、どんなものにしたいですか?
森晶麿さん:「舞城先生と合作したいもの……リアルフィクションとして『舞城王太郎』を主人公にした作品をやってみたいですね」
質問:また、金子玲介さんと舞城王太郎さんとの合作があるとして、どんなものを読みたいでしょうか?
森晶麿さん:「天使と悪魔みたいな分かりやすい対立構造の話を読みたいですね。恐らくお二人は出発点が真逆になるはずなので」
質問:舞城王太郎さんとの合作で、おすすめの方はいますか?
森晶麿さん:「舞城さんの合作は、舞城さん自身が突出した個性があるので誰でもありとは思いますが、しいて言えば島田雅彦でしょうか。島田雅彦の個性とのぶつかり合いは非常に楽しみではあります」
どれもぜひ読んでみたいと思わせる内容でした。森晶麿さんの、ミステリ作家ならではの視線が光る貴重な回答、ありがとうございました!
今後にも大注目
舞城王太郎さんは、2026年3月に新作『短歌探偵タツヤキノシタ』(ナナロク社)を刊行しています。
さらに3月には、同じく「第五の奇書」候補に挙げられる作品の書き手として名高い清涼院流水さんが、乙一さんのデビュー30周年企画に関連して、覆面作家の舞城さんから、電話を受けたことをXで報告。この興奮に満ちた投稿は、ミステリ界隈に大きな衝撃と歓喜を呼びました。
また、舞城作品への強い共感を公言する金子玲介さんの活躍にも見られるように、その影響は現在進行形で広がり続けています。
トーク中にもあった、金子玲介さんの『死んだ山田と教室』は、コミカライズも出版されるのに加え、新作『私たちはたしかに光ってたんだ』(文藝春秋)なども、各方面から、注目を集めています。
今回の森晶麿さん主宰のイベントでのトークも含め、今後のSF・ミステリ文芸の動向から目が離せませんね!
そして、そうした熱量を現場から支え、作家と読者の距離を更新していく場として、「KukuriNezi」のような試みにも引き続き注目していきたいところです。
ライターコメント
『ディスコ探偵水曜日』のkindle版は、初期の電子書籍規定だからなのかPDFのため、文字サイズが変更できないことから、スマホで読むことが多い読者にとっては、今回の紙の本の再販は、本当に嬉しかったのではないでしょうか。
『ドグラ・マグラ』を読んだ時も脳が揺さぶられるような感覚がありましたが、『ディスコ探偵水曜日』では、登場人物が実際に伸び縮みする描写もあるだけに、まるで身体感覚ごと揺さぶられるような強烈な読書体験でした。ミステリ好きの方にはもちろん、「これまで読んだことのないような作品に触れてみたい」という方に、おすすめの作品です。
ちなみに取材時に、「復刊にあたっての舞城先生のコメントは一言でしたが、その分、金子玲介先生が情熱的なコメントで盛り上げてくださり、今回のイベント出演なども含め、舞城ムーブをおおいに牽引してくださっているのが、舞城読者にとっても嬉しいのですよ」といった感謝を、金子玲介先生にお伝えしたところ、「ああ、あの舞城先生のコメントは、本当に素晴らしかったですね…」と目を遠くされていました。そのお姿から、本当に舞城王太郎先生をお好きなんだなと、感銘を受けました。
金子先生の「舞城先生は小説を線ではなく面で描く」という読解も、非常に示唆に富むものでした。
復刊企画の公式発表でも「『舞城王太郎を読む』というのはその行為にしかない稀有な体験」と記されている通り、舞城王太郎作品は、小説というメディアにおける文学的完成度にとどまりません。小説という媒体の枠を飛び越えるように、設定や文脈の外側にまで横断的に踏み込み、文体や構造、語りの手法を通じて読者に直接働きかける実験性を備えています。その読書行為は、時に「語り尽くせなさ」それ自体をあらわすような「かたり」を通じて、「小説表現、および『読む』とはどういうことか」という検討を突き詰めるものです。それは、現代美術のインスタレーションにも近い実感をもたらします。
というように、色々な読み方ができるだけに、まさに〝理に落とす〟ことすら烏滸(おこ)がましいほど、読み手の感じ方そのものを変えてしまうような体験と言えます。
筆者も舞城読者のひとりですが、とにかく今回のイベントは、「みんな、『舞城王太郎』のこと好きすぎるよ!」と叫びだしてしまいそうでした。
10代の頃、舞城王太郎先生の『阿修羅ガール』にて「読むのをやめたくてもやめられない」という人生初の強烈な吸引力に衝撃を受け、この1年でも、忘れるどころか、舞台化・復刊・イベント・新作発表などを通じて、より色濃く、舞城先生のことを考え続けることになりました。
今回のトークイベントは、各々の熱量をもつ舞城読者たちが集う場でもあり、非常に濃密な時間でした。これまでひとりで舞城作品に向き合ってきた読者にとっては、稀有な一体感を得られる機会だったのではないでしょうか。姿を見せない覆面作家でありながら、これほどまでに読み手および書き手へ影響を与え続けていることに、あらためて驚かされます。
金子玲介先生、そして森晶麿先生の小説も大変面白いので、舞城王太郎先生の本を読んだ人も読んでいない人も、ぜひ読んでみてくださいね!






