生まれてすぐのパンチくん=YouTube「市川市公式チャンネル」より

「パンチを見世物として消費させない」市川市動植物園・安永課長がメディアに〝1対1〟で対応した理由

By - emogram編集部・ゆんち
アニマル

人工哺育で育ったニホンザルの「パンチくん」が話題になり、千葉県の市川市動植物園には国内外からメディアの取材依頼が殺到しました。そのような場合、記者会見を開いたり、複数のメディアに対して一度に取材対応をするのが効率的ですが、市川市動植物園の安永崇課長は、基本的に1対1で対応しました。そこには、メディアの熱狂から「動物の尊厳」と「現場の平穏」を守るための温かな戦略がありました。

現場を守るため「私が引き受けました」

パンチくんの話題が瞬く間にSNSで拡散され、世界中から熱狂的な視線が寄せられ、市川市動植物園に混乱が生じつつあったとき、安永課長が下した決断は「飼育員をメディアから遠ざけること」でした。

安永課長:「まず思ったのは、園内で生じつつある混乱をできるだけ収拾したいということでした。まず実行したのは、『メディアの対応は私の方でやらせていただきます』ということ。管理長以下の飼育員には、どんなに騒ぎになっても、基本的には通常業務を引き続きしてもらうと決めました」

メディア対応を安永課長に一本化することで、飼育員たちは目の前の命を守ることに専念できます。また、「いろいろな職員が対応して発言がぶれるのを防ぐ」という、広報としての危機管理の側面もありました。

情報として「短期的に消費」されることへの強い危惧

そしてもう一つ、安永課長にはメディアに対して抱く思いがありました。

安永課長:「どんな情報も、大きな話題になったものほど冷めやすいというか、一時的に話題になったまま消化されてしまうことがありますよね。でも、一生懸命頑張っているパンチのことは、そんなふうに扱ってほしくなかったんです。短期間で情報として消費し尽くされてしまうのがすごく嫌だったんです」

一過性のブームで終わらせず、パンチくんの成長を長期的に見守ってもらうにはどうすればいいか。そこで安永課長が考えたのは、「必ず1社ずつ、1対1で対応する」というルールでした。

安永課長:「ご依頼いただいたメディアの取材は同時には受けず、必ず時間を決めて1対1で対応させていただきました。そうすると1日にお受けできる数は限られますが、お一人お一人に、しっかりとお伝えすることができると思ったんです。また取材も分散されるので、それだけ報道される期間も長くなり、短期的に消費させないかもしれない、という狙いもありました」

安永崇課長=市川市動植物園公式Xより

「見世物」ではない。命の物語を正しく伝えるために

国内外からひっきりなしに取材依頼が舞い込む中、1社1社と丁寧に向き合い続けた日々。その根底には、パンチくんを「見世物」として扱ってほしくないという覚悟がありました。

安永課長:「1社1社に対応することで、市川市動植物園としての考え方や状況を、きちんと記者やディレクターの方にお伝えした上で取り上げていただけると思いました。まだまだ群れ入りを目指して挑戦中のパンチですから、『見世物的』な扱いをしてもらいたくなかったんです」

時間をかけてでも、市川市動植物園の考えをしっかりと伝える。その真摯な姿勢があったからこそ、パンチくんのニュースが尊い「物語」として報道され、世界中の人々の心を打ったのではないでしょうか。

ライターコメント

取材をする側として、このお話は本当に身が引き締まる思いでした。安永課長が私との取材にも1対1でしっかりと時間を割いてくださった背景には、「パンチくんを消費させない」「見世物にしない」という、命への責任感があったのですね。その深い愛情と広報としての手腕に、市川市動植物園がこれほどまでに愛される理由があるのだと感じました。

<ライタープロフィル>ゆんち

2004年に産経新聞社へ入社。静岡、仙台での事件取材を経て、東京社会部では厚生労働省を担当、派遣労働問題などの社会課題を深く掘り下げる。また、特異なキャリアとして法廷画家を兼務し、数多くの法廷画を手掛けてきた。その後、産経新聞社が発行していたタブロイド紙「SANKEI EX」にてブランド、旅、食をテーマとした執筆活動を展開。南アフリカやオーストラリアなど世界各国を取材で巡るほか、臨時特派員として南太平洋のキリバス共和国への駐在経験も持つ。J-WAVE「TOKYO MORNING RADIO」にて、週1回おすすめニュースを3年間にわたり担当。

現在は2児の母となり、これまでの取材経験に加え、教育、健康、ライフハックへと関心の幅を広げている。「趣味を仕事に!」をモットーとする自称「脱力系ライター」。釣り、温泉、グルメ、そして海を眺めてぼーっと過ごす時間を愛する旅人でもある。長年、酒と旅と釣りを友としてきたが、現在は期間限定で禁酒中。新商品から旅、ファッション、グルメまで、自身のアンテナに触れたトピックを独自の視点で発信している。

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