サル山の群れ入りを目指して奮闘する市川市動植物園のニホンザル、パンチくん。その人気が高まるにつれ、ファンからは「ぬいぐるみが欲しい」「もっと関連グッズを増やしては」という要望も聞こえてきます。しかし、現在同園が公認しているグッズは、先日発売された「公式LINEスタンプ」のみ。今回は、市川市動植物園が抱えるジレンマについて考えてみたいと思います。
「商業目的にはしたくない」という考え
市川市動植物園の安永崇課長はemogram編集部の取材に対し、パンチくんを巡る過熱した人気に対し、「商業目的にはしたくない」という一貫した姿勢を示していました。
インタビューに対しても、「お金儲けをするということに関しては、少し慎重であるべきというのが基本的な考えです」と回答。パンチくんをはじめ、動物を「稼ぐためのキャラクター」として消費するのではなく、個体の尊厳を第一に守りたいという気持ちからでしょう。

一般的な企業なら、人気が出ればライセンスビジネスで利益を上げるのが王道ですが、公立動物園にとって特定の動物を「商品化」したり、特定の企業と組んだりすることは、公益性を考えても非常に高いハードルが存在するのです。
旭山動物園が変えた「仕組み」
かつて、閉園の危機から奇跡の復活を遂げた北海道旭川市の旭山動物園。同園が評価されているのは「行動展示」という見せ方の工夫だけではありません。実は、市民やファンの「応援したい」という熱量を、自治体という組織が受け入れる「仕組み」を作った点にあります。
こちらは最新の公式Xの投稿。企業の応援商品が紹介されています。
【お知らせ】BREEZEから旭山動物園応援商品が発売されました📢
キッズブランド「BREEZE」(@BREEZE_FO )から旭山動物園応援商品が販売開始となりました!
動物の魅力をモチーフに、子どもたちが着るだけで思わず笑顔になるようなアイテムです。 pic.twitter.com/7PO6sFckXm— 旭川市旭山動物園[公式] (@asahiyamazoo1) March 19, 2026
旭山動物園は「あさひやま〝もっと夢〟基金」を設立し、寄付金が直接、動物たちの展示環境の改善などに活かせるパイプラインを確立しました。商売として儲けるのではなく、ファンの「善意」を「動物の幸せ」に直結させる運営体制を整えたのです。旭山動物園が証明したのは、『信頼の受け皿』を作ることの重要性でした。
市川市動植物園が直面する課題
今、市川市動植物園が直面しているのは、まさにこの「受け皿づくり」の課題です。 殺到する寄付の問い合わせに対し、園は「#がんばれパンチ サポーターズガイド」を公表しました。これは、いわゆる〝お役所〟特有の「前例」や「ルール」の壁を越え、ファンの熱狂をパンチくんたちの環境改善へと正しく還元しようとする、市川市の大きな挑戦でもあります。
【ご支援よろしくお願いします】
「#がんばれパンチ サポーターズガイド」公開
How to donate to the Ichikawa City Zoological and Botanical Gardenhttps://t.co/SDLwbT3BK1
振込の口座番号は必ず上記URLに表示されるものをご指定ください。LINEスタンプ(パンチ)も緊急発売!#市川市動植物園 pic.twitter.com/Dqh6DRR5Lp
— 市川市動植物園(公式) (@ichikawa_zoo) March 16, 2026
グッズを乱発しないという誠実さは、パンチくんを「一過性のブーム」で終わらせず、一頭のニホンザルとして大切に育てていきたいという愛情の裏返しでしょう。私たちはその姿勢を、温かく見守る必要があります。
LINEスタンプを購入することや、ふるさと納税で「動物園の支援」を選択すること。それは単なる消費ではなく、昭和の時代に作られた古い設備を世界基準の環境へとアップデートするための「一票」になるかもしれません。パンチくんが変えようとしているのは、サル山の環境だけでなく、日本の公立動物園の「仕組み」そのものなのかもしれません。
ライターコメント
取材を通じて、パンチくんを単なるアイドルではなく、尊厳ある「生き物」として守りたいという市川市動植物園の強い信念が伝わってきました。ビジネス的な視点を持つことは大切ですが、それは「儲ける」ためではなく、集まった善意を「一円も無駄にせず動物の床に敷く土に変える」ため。古い慣習の壁を越え、必死に「善意の受け皿」を作ろうとしている市川市動植物園を、長い目で見守っていきたいと思います。
<ライタープロフィル>ゆんち
2004年に産経新聞社へ入社。静岡、仙台での事件取材を経て、東京社会部では厚生労働省を担当、派遣労働問題などの社会課題を深く掘り下げる。また、特異なキャリアとして法廷画家を兼務し、数多くの法廷画を手掛けてきた。その後、産経新聞社が発行していたタブロイド紙「SANKEI EX」にてブランド、旅、食をテーマとした執筆活動を展開。南アフリカやオーストラリアなど世界各国を取材で巡るほか、臨時特派員として南太平洋のキリバス共和国への駐在経験も持つ。J-WAVE「TOKYO MORNING RADIO」にて、週1回おすすめニュースを3年間にわたり担当。
現在は2児の母となり、これまでの取材経験に加え、教育、健康、ライフハックへと関心の幅を広げている。「趣味を仕事に!」をモットーとする自称「脱力系ライター」。釣り、温泉、グルメ、そして海を眺めてぼーっと過ごす時間を愛する旅人でもある。長年、酒と旅と釣りを友としてきたが、現在は期間限定で禁酒中。新商品から旅、ファッション、グルメまで、自身のアンテナに触れたトピックを独自の視点で発信している。






