市川市動植物園公式Xより

なぜ9万人が押し寄せても「騒動」は起きないのか 市川市動植物園に広がる、ファン自らの〝自浄作用〟

By - emogram編集部・ゆんち
アニマル

3月の来園者数、9万人。 小さな市営動物園にこれほどの人が殺到すれば、通常ならマナー違反やトラブルが多発し、「撮影禁止」や「立ち入り制限」など強硬な手段に踏み切ることも考えられます。しかし、市川市動植物園のサル山では、いまも秩序が保たれています。なぜ、ここでは「騒動」が起きないのか。その裏には、〝中の人〟こと安永崇課長が張り巡らせた優しい見えない「バリケード」があるようです。

飼育員を守ることは、パンチくんを守ること

今回パンチくんが注目を浴びることになり、安永課長が何よりも大切にしたのは「動物たちの日常を守ること」でした。動物たちの日常を守ることは、すなわち飼育員やスタッフの日常を守り、掃除やエサやりなどのルーティンに支障を出さないことでもあります。

それは、パンチくんとサル山担当の2人の飼育員も例外ではありません。パンチくんは母ザルの育児放棄のため、人工哺育によって2人に育てられましたが、2人はパンチくんの母親代わりであると同時に、サル山全体の担当者でもあります。

もし2人が、過熱するファンの視線や接触などによって本来の業務に支障が出てしまったら、そのしわ寄せはパンチくん、そしてサル山の群れ全体にも影響を及ぼしかねません。

安永課長は、自らがSNSの矢面に立ち、現場の状況をときにはユーモアを交えつつまめに発信。それによって「目に見えないバリケード」を築き、スポットライトが飼育員2人だけに当たってしまうことを絶妙に避けました。飼育員の2人が外部の喧騒に惑わされることなく、ただ目の前のパンチくんとサルたちの声に耳を澄ませる環境を守ったのです。

飼育員が穏やかであれば、パンチくんも安心できる。この「心の連鎖」こそが、サル山の安定を支える最大の要因となったのではないでしょうか。

ファン一人一人がマナーを守る空気

もう一つのバリケードは、ファンが自発的に作ったように思います。市川市動植物園の公式Xが、現場で感じた喜びや新たな試み、そしてときには「開園ダッシュする方は『ゼロ』でした」「しずかに見てね」といった願いを、言葉を尽くして届けてきました。

その結果、ファンの中に「市川市動植物園をみんなで一緒に守らなければならない」という意識が芽生えたようです。マナー違反が確認されても、公式Xでの呼びかけに応じて、その後は自発的に守るという流れが出来上がっています。

監視されるから守るのではなく、市川市動植物園の平和を願うからこそそれぞれが自発的に守る。そんな空気が、いまの市川市動植物園にはあるようです。

この絶妙なバランスの上に成り立つ「市川市動植物園」は、SNS時代の危機管理や組織運営において、一つのモデルケースといえるかもしれません。

ライターコメント

地方自治体が運営する施設で、これほど「中の人の顔」が見える発信を続けるのは、実はものすごい勇気がいることだと思います。何かあれば叩かれるリスクがある中で、それでもオープンであり続けるのは、来園者のこと、そしてスタッフのことを考え抜いた結果なのでしょう。ファンの間で自然と広がったハッシュタグ「#がんばれ市川市動植物園」には、そのままファンの思いが詰まっていると思います。

<ライタープロフィル>ゆんち

2004年に産経新聞社へ入社。静岡、仙台での事件取材を経て、東京社会部では厚生労働省を担当、派遣労働問題などの社会課題を深く掘り下げる。また、特異なキャリアとして法廷画家を兼務し、数多くの法廷画を手掛けてきた。その後、産経新聞社が発行していたタブロイド紙「SANKEI EX」にてブランド、旅、食をテーマとした執筆活動を展開。南アフリカやオーストラリアなど世界各国を取材で巡るほか、臨時特派員として南太平洋のキリバス共和国への駐在経験も持つ。J-WAVE「TOKYO MORNING RADIO」にて、週1回おすすめニュースを3年間にわたり担当。

現在は2児の母となり、これまでの取材経験に加え、教育、健康、ライフハックへと関心の幅を広げている。「趣味を仕事に!」をモットーとする自称「脱力系ライター」。釣り、温泉、グルメ、そして海を眺めてぼーっと過ごす時間を愛する旅人でもある。長年、酒と旅と釣りを友としてきたが、現在は期間限定で禁酒中。新商品から旅、ファッション、グルメまで、自身のアンテナに触れたトピックを独自の視点で発信している。

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