市川市動植物園提供

パンチくんの〝大先輩〟オトメの物語 ヌイグルミをお供に乗り越えた「群れ入り」と母になるまでの軌跡

By - emogram編集部・ゆんち
アニマル

現在、市川市動植物園で「群れ入り」に励んでいるニホンザルのパンチ。パンチと同じように、かつて人工哺育を経てサル山への復帰を果たした一頭のメスザルがいました。その名は「オトメ」。

オトメの物語は、パンチくんが歩む道のりが希望に満ちたものであることを教えてくれます。市川市動植物園の公式HPより、オトメの話を紹介したいと思います。

「血の跡がないメス」が守っていた、小さな命

2008年6月20日の朝、飼育員さんがサル山へ個体確認に向かったときのことです。放飼場(お客さんが観覧するエリア)の入り口付近で、一頭の生まれたばかりの子ザルと、それに付き添うように寄り添うメスザルが発見されました。

一見、微笑ましい母子の光景に見えましたが、飼育員さんは異変に気づきます。そのメスは、明らかにお母さんではなかったからです。

公式HPより:「出産にともなう出血の跡がないこと、何よりこのメスは仔育てのベテランで、面倒をみないということは考えられません。産み落とされたこの仔ザルをかばっていただけで、育てることはできません」

独りぼっちで産み落とされていた子ザル。それを、出産とは無関係のベテランメスが「せめて誰にも邪魔されないように」と、静かに守っていたのです。

子ザルは「ギャーギャー」と大きな声で鳴き、生きようとする力に溢れていました。こうして保護された子ザルは「オトメ」と名付けられ、人工哺育の道を歩み始めます。

市川市動植物園提供

「黄色いクマ」が、お母さんになった

オトメさんがしがみつく相手は、お母さんの温もりではなく、タオルやぬいぐるみでした。

公式HPより:「最初はタオルにしがみつき、丸くなっていましたが、歩くようになってからは…与えたヌイグルミにつかまっていました。中でも自分より大きな黄色いクマのヌイグルミがお気に入りで、よく上に乗るようになりました」

この「黄色いクマ」こそが、オトメにとっての世界のすべて。今のパンチが「オランママ」を肌身離さないように、オトメもまた、このヌイグルミを心の拠り所にしていきました。

市川市動植物園提供

あえて「過保護にしない」飼育員の覚悟

市川市動植物園の公式HPによれば、人工哺育の子ザルを群れに戻すのは、至難の業とのこと。人が可愛がりすぎると、子ザルが人間に依存してしまい、ほかのサルを「怖い敵」だと感じてしまうからです。

公式HPより:「オトメの哺育は、ある程度育った時期から過度な接触を避け、自立を促すようにしました。実際、ニホンザルのお母さんは仔ザルを危険から守ることはしますが、決して過保護な育児はしません」

ぬいぐるみをお供に、サル山の一員へ

生後3ヶ月、ついにサル山での本格的な訓練が始まります。オトメはどこへ行くにも、お気に入りの「黄色いクマ」を自分で引き連れて歩きました。

公式HPより:「オトメにちょっかいを出す若いサルもいますが、ヌイグルミに逃げればそれ以上のことはされません。このヌイグルミは、まさに自分を助けてくれるお母さんです」

ヌイグルミを抱えたまま群れの中で過ごす姿は、仲間たちにとっても「この子はこういう子なんだ」と受け入れるきっかけになったのかもしれません。オトメは見事、サル山の一員として迎え入れられたのです。

そして、オトメ自身も「立派なお母さん」へ

群れに馴染んだオトメは、その後4度の出産を経験しました。かつて自身が受けられなかった「母の手による育児」を、彼女は自分の子供たちに惜しみなく注ぎ、立派に育て上げました。現在では、彼女の孫にあたる世代まで誕生しています。

■取材協力:市川市動植物園

ライターコメント

朝のサル山で、血の繋がらないベテランメスが、捨てられたオトメを静かに守っていた…。その光景を想像するだけで、サルの世界の奥深さに胸が熱くなります。オトメが歩んだ「ヌイグルミから卒業し、本物の母になる」という奇跡の物語。パンチくんの物語も、きっと素敵なエンディングへ向かっていると信じています。

<ライタープロフィル>ゆんち

2004年に産経新聞社へ入社。静岡、仙台での事件取材を経て、東京社会部では厚生労働省を担当、派遣労働問題などの社会課題を深く掘り下げる。また、特異なキャリアとして法廷画家を兼務し、数多くの法廷画を手掛けてきた。その後、産経新聞社が発行していたタブロイド紙「SANKEI EX」にてブランド、旅、食をテーマとした執筆活動を展開。南アフリカやオーストラリアなど世界各国を取材で巡るほか、臨時特派員として南太平洋のキリバス共和国への駐在経験も持つ。J-WAVE「TOKYO MORNING RADIO」にて、週1回おすすめニュースを3年間にわたり担当。

現在は2児の母となり、これまでの取材経験に加え、教育、健康、ライフハックへと関心の幅を広げている。「趣味を仕事に!」をモットーとする自称「脱力系ライター」。釣り、温泉、グルメ、そして海を眺めてぼーっと過ごす時間を愛する旅人でもある。長年、酒と旅と釣りを友としてきたが、現在は期間限定で禁酒中。新商品から旅、ファッション、グルメまで、自身のアンテナに触れたトピックを独自の視点で発信している。

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