世界的人気を博している市川市動植物園のニホンザル、パンチくん。群れ入りを目指して頑張っている姿がSNSを通じて国境を越えたとき、海外の一部の視聴者からとある〝反応〟がありました。それは、パンチくんたちが暮らす「コンクリートのサル山」への違和感でした。
「人間都合」の清潔さと、動物たちの現実
日本人にとって、ゴツゴツとした岩場を模したコンクリートの山は、幼いころから見慣れたサル山の光景です。しかし、野生の生息環境を重視する人々の目には、それが異様な光景に映ったようなのです。
なぜ、動物園にはコンクリートが多いのでしょうか。最大の理由は「管理のしやすさ」にあります。コンクリートは高圧洗浄機で一気に洗い流せるため、人間にとっては衛生的で、ニオイも抑えられ、鑑賞しやすい環境を保てます。

しかし、コンクリートの地面は冬には底冷えし、夏には太陽光を吸収して灼熱の照り返しを生みます。多くのサル山には土や草もありますが、自然の環境に比べればごくわずかで、無機質な空間です。
戦後の歩みと、現場の努力の限界
これには歴史的な背景があります。戦後の日本は、限られた予算と狭い土地の中で、いかに多くの市民に動物を通じた教育機会を提供できるかに腐心してきました。耐久性が高く、メンテナンスコストを抑えられるコンクリート展示は、当時の日本にとって現実的な選択肢だったようです。
現在、旭山動物園(北海道)を筆頭に、行動展示を取り入れて入園者数を劇的に伸ばした成功例もあります。パンチくんがいる市川市動植物園もさまざまな趣向を凝らし、規模に比べると年間来場者数の多い動物園の一つです。
しかし、そうした改革の多くは現場スタッフの血の滲むような創意工夫と努力に支えられているのが実情です。本来、公立施設のインフラ改善を「現場の熱意」だけに頼り続けるのには限界があるでしょう。
動物福祉の先進国、ドイツに学ぶ「隠れる自由」
一方、動物福祉(アニマルウェルフェア)の先進国として知られるドイツなどの動物園では、考え方が根本から異なります。 最優先するのは、観客の「見やすさ」ではなく、動物が「種本来の行動」を取れるかどうか。
地面は柔らかな土や落ち葉で覆われ、本物の樹木が植えられた展示場では、動物が茂みに隠れて観客から見えなくなることも珍しくありません。「見えない時間があること」こそが、動物のプライバシーを守り、ストレスを軽減するという考え方です。
「意識」を変えるとき
パンチくんをきっかけに、今、日本の動物園は大きな転換期を迎えたのかもしれません。 施設の老朽化を嘆くだけでなく、「安くて清潔で見やすい」という消費者側の論理についても、もう一度考えるときが来たのではないでしょうか。
市川市動植物園が打ち出した「サポーターズガイド」は、その第一歩かもしれません。私たちが支払う寄付や応援の気持ちが、パンチくんの足元を硬いコンクリートから、柔らかな「未来の土」へ。そんな新しい動物園のあり方を、ともに考えていく時期が来ています。
■市川市動植物園 サポーターズガイド
https://www.city.ichikawa.lg.jp/site/zoo/54018.html
ライターコメント
かつての日本が「見やすさ」を求めたのは、動物を知ってもらうための精一杯の形でした。でも、これだけ世界と繋がれる今なら、私たちはもう一歩先の「動物の幸せ」を応援できるはず。公式LINEスタンプ購入が、いつかサル山の床を心地よい土に変えることができるかもしれません…。というわけで、私もその第一歩ということで友人や家族にパンチくんのスタンプをプレゼントしてみました。
<ライタープロフィル>ゆんち
2004年に産経新聞社へ入社。静岡、仙台での事件取材を経て、東京社会部では厚生労働省を担当、派遣労働問題などの社会課題を深く掘り下げる。また、特異なキャリアとして法廷画家を兼務し、数多くの法廷画を手掛けてきた。その後、産経新聞社が発行していたタブロイド紙「SANKEI EX」にてブランド、旅、食をテーマとした執筆活動を展開。南アフリカやオーストラリアなど世界各国を取材で巡るほか、臨時特派員として南太平洋のキリバス共和国への駐在経験も持つ。J-WAVE「TOKYO MORNING RADIO」にて、週1回おすすめニュースを3年間にわたり担当。
現在は2児の母となり、これまでの取材経験に加え、教育、健康、ライフハックへと関心の幅を広げている。「趣味を仕事に!」をモットーとする自称「脱力系ライター」。釣り、温泉、グルメ、そして海を眺めてぼーっと過ごす時間を愛する旅人でもある。長年、酒と旅と釣りを友としてきたが、現在は期間限定で禁酒中。新商品から旅、ファッション、グルメまで、自身のアンテナに触れたトピックを独自の視点で発信している。












