『アバウトアス・バット・ノット・アバウトアス』© The IDEAfirst Company, Octobertrain Films, Quantum Films

【後編】フィリピン発、〝脚本の魔術師〟による90分間レストラン「新感覚ミニマル室内劇」が世界を熱狂させる理由

By - emogram編集部
エンタメ

フィリピン映画 『#アバウトアス・バット・ノット・アバウトアス』が、 2026年1月17日からシアター・イメージフォーラム(東京・渋谷)ほかにて全国で順次公開されています。

<前編>では、近年、フィリピン映画界に注目が集まっている中でも、特に本作が話題である背景、また、辛酸なめ子さんによる見どころ漫画やストーリー紹介、辛酸なめ子さんとフィリピン映画研究のヤマクニキョウコさんとのユニークなアフタートークのご紹介、ヤマクニさんからの独占コメントを掲載しました。

続く今回の後編では、さらに視点を広げ、作品を支えるクリエイティブの源泉を紐解きつつ、各界の著名人からのコメントや、SNSでの反響、配給の津留崎麻子さんからのメッセージを一挙公開します!

ポスターのメインビジュアルを手掛けたジャスティン・ベサナさん

フィリピンのグラフィック・アーティスト ジャスティン・ベサナさん

今回、筆者は、フィリピン映画の多くのポスタービジュアルを手掛ける、フィリピンで著名なグラフィック・アーティストデザイナーのジャスティン・ベサナさんにも、制作意図を伺う貴重な機会を頂きました。

ジャスティンさんは本作のフィリピンオリジナル版ポスターのほか、今回のパンフレットの裏表紙にもなっている、タイトルロゴなどを描かれています。

筆者は今回、ジャスティンさんに、ポスターで描かれた「エリックとランスの間に、ランス自身を見つめるランスがいる」という構成のビジュアルイメージを国内版でも採用した意図について尋ねました。

この質問に対しジャスティンさんからは、「エリックとランスの間にいるランスについては、もうひとりの彼がいろいろなことをコントロールしているかもしれないという可能性の示唆のために描きました。エリック先生の前でのランスの振る舞いや、エリック先生の反応、そしてすべてを」という答えが返ってきました。

映画を見た人にとっては、きっと腑に落ちるコメントではないでしょうか。

映画観賞後に、改めてポスターの真ん中にいるランスの表情をよく見てみれば、より映画の内容が、心に刻まれるものになりそうです。是非、観賞前と観賞後の感慨の違いを味わってみてくださいね。

『パンフレットの裏表紙アバウトアス・バット・ノット・アバウトアス』 © The IDEAfirst Company, Octobertrain Films, Quantum Films

まるで、文庫本に見える、お洒落なパンプレットも、読み応え抜群です!

SNS・各界からのコメント

『アバウトアス・バット・ノット・アバウトアス』© The IDEAfirst Company, Octobertrain Films, Quantum Films

本作には、各界の名だたる著名人がコメントを寄せています。一部ご紹介します。

ケラリーノ・サンドロヴィッチさん(劇作家・音楽家)
延々会話してるだけの映画である。なのにすこぶる面白く、まったく飽きない。 言ってみれば演劇的な設えなのだが、演劇ですら、ここまで物理的な動きを封じたものをやるには、なかなかの勇気がいる。もちろん、心理的な動きは満載で、それが全てと言ってもよい

かもめんたる・岩崎う大さん(かもめんたる/芸人・脚本家)
「 エンタメとは、根源を辿っていくと他人のことを知りたいという下世話な欲求だと僕は信じている。そして、その最新の地点がこの魅力的な映画であるように思える」

児玉美月(映画批評家)
 「この映画のクィアな登場人物たちは皆、表の顔と裏の顔、善と悪が共存した多面的で複雑な人間として造形されている。それは、これまで映画が構築してきた『模範的なクィア表象』への異議申し立てでもあるのかもしれない」

増田セバスチャン(アーティスト/原宿系ファッションブランドの6%DOKIDOKIなど)
誰でも、隣の人の会話をつい聞いてしまったことはないだろうか? <中略> それが、聞けば聞くほど『知らなくてもよかった』と思うような会話だったとしても? 言葉のかけ引き。じりじりと八方塞がりに追い込まれる記憶の断片。果たして、それは最後まで聞いてしまっていいのだろうか?

南Q太(漫画家)
「理解していたはずの、大切な人の姿が思いもかけず変わっていくのはとても恐ろしいことだ 」

このほか、青野賢一さん(文筆家/選曲家)、あんこ(映画大好き芸人)、石坂健治さん(東京国際映画祭シニア・プログラマー/日本映画大学教授)、山本博之さん(京都大学東南アジア地域研究研究所准教授)、Niki NikitinPÖFF さん(タリン ・ブラックナイト映画祭)など、名だたる方々のコメントが、公式サイトやパンフレットに掲載されています。

また、SNS上でも、映画好きの人々を中心に、高く評価するコメントで盛り上がりを見せています。

「『アバウトアス・バット・ノット・アバウトアス』『マーズ・エクスプレス』と立て続けにオールタイムベスト級映画に出会えたので、2026年は幸先がいい」

「ほぼ二人きりワンシチュエーションの会話劇としては最高傑作では」

「秘密を握る者の強さ傲慢さに知る者の驚き、それによる二人の力関係の変化と幾層にも重ねて行く濃密な会話は全く飽きない面白さ 脚本演技カメラワークもお見事」

「文学的で抒情詩を映像化したような趣きある つくりで引き込まれた。 これでもかと続く暴露の応酬。 徐々に見えてくる人の本質。 味わい深い。 所謂ご想像にお任せしますなラストも好み」

「回想は窓外が昼→夜に変わって2人が演じるという演劇的手法。冒頭とラストにレストラン外の車内シーンが僅かにあり、その印象が強い。作家の性(さが)についての映画だと思う」

制作陣の秘話

本作のジュン・ロブレス・ラナ監督はLGBTQ+当事者でもあり、映画プロデューサーのペルシ・インタランさんと、2013年にニューヨークで同性結婚、現在は孤児を引き取り2人で育てています。

日本での映画公開前に、ラナ監督が矢田部吉彦さん(前東京国際映画祭ディレクター)と対談を行った際、本作がコロナ禍の中で制作されたことを踏まえ、「フィリピンのロックダウンの時代の中でたくさんの人が亡くなり、同時に『麻薬戦争』と呼ばれるような時代が来て、たくさんの人が亡くなりました。そういう時代を迎える中で、自分が映画を作る人間として、いま起きていることや自分の個人的な気持ちを会話形式で書いていく中で、これは脚本にできるんじゃないかと思ったんです」と指摘。

そのうえで「そして、そうすることによって、フィリピンの現状を反映することができるとも感じました。例えば、実際にレストランに行って友人と会おうと思っても時間制限があったりします。その実際の状況を脚本に反映するうちに、2人の会話形式という形にたどり着いたんです」と経緯を語っています。

以前から、ラナ監督の作品を見てきたり、フィリピン映画界に注目してきたりした人達にとっては、こういったバックグラウンドが、映画にどう活かされているか、という部分も見どころかもしれませんね!

こちらの対談は、パンフレットにも全文が記載されています。

配給会社サムワンズガーデンの津留崎さんからのコメント

日本映画大学での試写会時の石坂健治学部長(左)、サムワンズガーデンの津留崎麻子さん(右)

今回、配給会社のサムワンズガーデン、津留崎麻子さんも、フィリピン映画の現在地について、筆者の独自取材に対して語ってくれました。

津留崎さんが、フィリピン映画の可能性にいち早く気づいた2010年代、まだ日本国内で劇場公開されている作品は本当に一握りだったといいます。

その状況を打破すべく、「フィリピン映画の魅力を伝えるために映画の配給を始めた」のだといいます。

とりわけ本作に関しては、マニラの映画祭(シネマラヤ)で実際に鑑賞し、ラナ監督の才能に一目惚れした」ことがきっかけとなり、今回の配給まで至ったと説明してくれました。そして、「このたび劇場でたくさんの方に観ていただき、ポジティブなご感想を頂くにつれ、あの時の感覚はやはり正しかったのだなと感じています」と喜びを語ってくれました。

本作のラナ監督については、「シニカルなユーモアと演劇的なスタイルで現代社会の問題を語る映画作家の一人という位置付け」だと指摘。また、フィリピンではスター俳優である主演の2人について、「お2人も繊細でとてもチャーミングな存在感を持つ方たち」と述べていました。そのうえで、「日本にも多くのファンが生まれることを願っています。ぜひスクリーンでご覧いただけましたら嬉しいです。劇場でお待ちしています」と語ってくれました。

フィリピン映画の現在、ぜひ見に行ってみてくださいね!

文庫本を模した、お洒落なパンプレットはもちろん、辛酸なめ子さんオリジナルアイマスクグッズの販売もあり、ゲットしたい方は、ぜひ、お早目に!

アバウトアス・バット・ノット・アバウトアス』© The IDEAfirst Company, Octobertrain Films, Quantum Films

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ライターコメント

《脚本の魔術師》といわれるラナ監督だけあって、ストーリーや構成はもちろん、ちりばめられた台詞のひとつひとつが、珠玉のように煌めいていました。津留崎さんに快諾いただき、その一部をご紹介します。

歳を重ねて気づくだろう 記憶の殆どは偽ものだと

「もっと悪いのは 自分に言い聞かせるウソだ」

「自分にウソをつき続けると それが真実だと思い込むように 人間は賢い だからウソを真実に 変えることができる」

ウソをつくことで人生が少しーー 面白くなるんだろうね

エリック先生がランスに対して語るこれらはラナ監督の人生哲学そのものがにじみ出ているようです。そして、昨今の芸術や制作に携わる人々にとってのリテラシー問題にも触れつつ、それでも芸術をつくっていくことへの情熱と決意、そして狂喜すら伝わってきます。

エリック先生「素晴らしい文章だが そういうことじゃない」「これは 私達の物語だ 見世物じゃない」

ランス「もはや僕らの物語ではない」

エリック先生「知り合いにはすぐわかる これが私達の物語だと」

ランス「でも知らない人にとっては ただの物語ですよ 芸術以上でも以下でもない」「僕らのくだらない時間が発端だとしても関係ない 特別な何かに作り変えさえすれば 苦悩が芸術に生まれかわった この作品として」「なんて素晴らしい芸術なんでしょう」

こうした会話のやり取りを見て既に映画に強い関心を頂いた人もいらっしゃるのではないでしょうか。

映画好きの人はもちろん、舞台好きの人、そして文学好きの人にも、ぜひ劇場で、その人間と人間の対峙や緊迫感を味わっていただきたいです!

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