姫路文学館(兵庫県姫路市)で、特別展「没後10年 作家 車谷長吉展」が6月22日まで開催されています。
1998年に直木賞受賞
車谷長吉氏(享年69)は、兵庫県姫路市飾磨区出身の「最後の私小説作家」と呼ばれた作家です。
1993年に初の単行本「鹽壺の匙」を上梓。1998年には「赤目四十八瀧心中未遂」で直木賞、2000年には「武蔵丸」で川端康成文学賞を受賞するなど、様々な文学賞を受賞し、いまなお、根強いファンを持つ影響力のある作家として知られています。
今回の展示会では、東京都文京区の終の住処「蟲息山房」に残した遺品が姫路文学館へ一括寄贈されることになったのを受け、約1000冊の蔵書のほか、500点にのぼるノートやメモ、原稿類の展示を通して、作家「車谷長吉」が形成されていく姿を紐解く内容になっています。
そんな車谷氏の特別展を実施中の姫路文学館の公式Xに、5月22日、突如、バンダナ姿で知られる芥川賞作家の写真が投稿され、大きな話題を集めました。
【没後10年 作家 車谷長吉展】
昨日、万城目学さんをお見送りしたと思ったら、な、なんと吉村萬壱さをがご来館!!
車谷さんは作家に愛される作家なのだとしみじみ❤
18年前の車谷長吉展にも来てくださっていた萬壱先生!本当にありがとうございました!😊
車谷長吉展、ますます熱くなってきたぞぉ!💕 https://t.co/NSdEejlNdl pic.twitter.com/0G02dE0Xhv— 姫路文学館 (@himeji_bungaku) May 22, 2025
今回、写真でも登場したのは作家の吉村萬壱先生(64)です。
バンダナ姿がトレードマークの吉村先生とは
吉村氏は、1997年に「国営巨大浴場の午後」で第1回京都大学新聞社新人文学賞受賞、2001年に「クチュクチュバーン」で第92回文學界新人賞受賞するなど数々の受賞実績のある作家です。
元々はプロの小説家になるつもりはなかったといいますが、2003年に「ハリガネムシ」で第129回芥川賞を受賞、勤めていた大阪府の高校を退職して専業作家になりました。
近年は、暗黒世界や反理想郷を指すディストピア文学や、人間の深い領域に差し迫る作品をコンスタントに上梓していますが、実際に会った人が抱く印象は、関西人かつ教員ならではの気さくで面白い人柄のギャップについ引き込まれるチャーミングで魅力のある人ということです。
トレードマークはバンダナです。本人も「当時の『にちゃんねる』を見たら、『今年の芥川賞受賞者にはラーメン屋がいる』と書かれていた」と語るほどです。
今回は、ゲリラ的な訪問だったのでしょうか?
エモグラム編集部が独自に取材
真相を探るべく、emogram編集部のライターである筆者は早速、吉村氏に独自取材を敢行しました。
吉村氏は取材に対し「姫路文学館では18年前にも『作家車谷長吉。魂の記録』という特別展をやっていて、その時も私は見に行きました」とした上で、「その時の学芸員さんが今も同館に在籍しており、Xで『絶対行く』と呟いたところ連絡があり、招待券まで送ってくれました」と経緯を明かしてくれました。
筆者は、姫路文学館で18年前に行われた特別展開催時にも在籍されていた学芸員さんにも取材を行いました。
18年前も学芸員として同館に勤め、今回の「車谷長吉展」担当学芸員の竹廣裕子さんによると「確かに当時も吉村先生には来館頂きました」と認められました。その上で「18年前は車谷さんのサインの列に並ぶバンダナ姿に『ええっ!?』となりました」と、当時、とても驚いた出来事だったと笑顔で振り返っていました。
18年前の吉村氏の「ゲリラ訪問」をきっかけに、時を超えたご縁があったのですね。SNSがこうしたほっこりエピソードに一役買うとは、やはりテクノロジーの進化の功ですね。
展覧会での、文学ファンの反応
Xでは、展覧会を訪問した車谷長吉氏と吉村氏の双方のファンと思われる人から「恐れ多くもあの吉村萬壱さんが座ったであろうポジションにてパネルと記念撮影 ほんのり萬壱先生の残り香が嗅げたような気がした…?」など興奮気味の投稿がありました。
この投稿に対し、吉村氏は、自身の訪問の前日に、直木賞作家の万城目学先生(49)が今回の特別展を訪れていたことに触れ「おおっ! 私も万城目学さんの残り香を嗅ぎました」とお茶目な返信をされていました。
今回の投稿もそうですし、吉村氏の読者はもちろんご存じのことか思いますが、先生は、世の中にシビアな眼差しを向ける書き手でありますが、その根底にあるのは、世界や人びとに対する深い愛情であるように思えてなりません。
車谷長吉展の熱気
今回の展示会が、吉村氏の訪問でも話題となったことなどを受け、学芸員の竹廣さんは、「少しずつですが、車谷長吉展の熱気が、全国の車谷作品の読者に広がりつつあるのが嬉しいです」と語っています。
数多くの作家に影響を与えたであろう車谷文学に、筆者としても今一度、触れたいですし、車谷氏を知らない方も、是非、著書に触れたり、今回の展示会を訪ねてみてはいかがでしょうか。
姫路文学館 特別展「没後10年 作家 車谷長吉展」公式URL
http://www.himejibungakukan.jp/events/event/kurumatanichoukitsu2025/