母であるテントに毛づくろいをしてもらっている、ボスのトロロ=写真提供:高尾山さる園・野草園

かつてのナンバー2はいま…ドラマチックな高尾山さる園、姑「テント」の転落と再起

By - emogram編集部・ゆんち
アニマル

東京都八王子市「高尾山さる園・野草園」の現ボス「トロロ」には、22歳になる母親がいます。名前は「テント」。かつて群れの中でメスの中で最高順位となる「ナンバー2」という高い地位にあったテントは今、息子であるトロロの「彼女」たちから距離を置かれる、いわば「姑」のような立場になっています。栄華を誇った過去、転落、そして静かな再起——そこには、人間社会さながらの物語がありました。

前ボスに愛された、絶頂の時代

「元々は2番目の位にいたんです。前の亡くなったボス(ネッシン)の奥さん的な存在だったので」

同園の副園長・堅木杏美さんは、テントのかつての立場をそう振り返ります。前ボスの「ネッシン」が1位、そのお気に入りだった「テント」が2位、そして息子の「トロロ」が3位。

それが、かつての群れの序列でした。ボスの寵愛という強力な後ろ盾を得て、テントは高い地位に君臨していたのです。

もともとは、サル山のサルたちに慕われた偉大な先代のボスの妻だった「テント」=写真提供:高尾山さる園・野草園

しかし堅木さんによれば、その立場に少し「おごり」が生まれていた時期もあったといいます。

堅木さん:「周りのサルや、小さくて弱い赤ちゃんに対しても、本気で怒って威嚇したりしていたんです」

まだ生後3カ月ほどの赤ちゃんが、水を飲むテントの隣にちょこんと座っただけで、「邪魔」とばかりに叩かれ、池に落とされてしまったこともあったといいます。すぐに母親が助けに駆けつけたものの、当時のテントがどれほど気の強いサルだったかを物語るエピソードです。

権力の後ろ盾を失って

そんなテントの立場を大きく変えたのが、前ボス・ネッシンの死でした。

堅木さん:「ボスに守られていたからこそ気が大きくなっていたのですが、守ってくれていたボスが亡くなってしまいました」

後ろ盾を失ったテントは、なんとか自分の高い地位を維持しようとしたものの、次第に息子のトロロや周囲に追い抜かれ、序列は大きく下がっていったといいます。

そして、かつて自分がいびってきた側から、今度は報復を受けることになります。トロロの「彼女」である「レタス」や「ホッペ」から、いびり返されることもあったというのです。

堅木さん:「今まで周囲を散々いびってきた関係で、周りのサルたちからはあまりよく思われていません」

母であるテントに毛づくろいされるボスのトロロ。すぐ後ろ(左)には、冷たい視線を向けるレタスの姿=写真提供:高尾山さる園・野草園

息子との距離、そして再起

そんなテント、22歳という年齢ですがなんと2年前に出産もしました。

堅木さん:「もう年齢的にも赤ちゃんは産まないだろうな、と思っていたのですが、一昨年(2024年)に赤ちゃんを抱っこしていたんです」

以前からほかのサルの赤ちゃんを構いたがるクセがあったテントを見て、堅木さんたちは最初「また誰かの子を連れてきたのかな」と思ったといいます。しかし、大切に抱き、乳をあげるようすを見て、それが本当にテント自身の赤ちゃんだと気づいたそうです。

現ボスであるトロロは、母に対して「お母さんはお母さん」という態度を崩さない一方で、2頭の本妻候補「レタス」「ホッペ」の前では少し複雑な事情もあるようです。

堅木さん:「自分の本妻候補の2頭に気に入られたいという気持ちもあって、彼女たちの前でかっこつけている部分があります。そのため、彼女たちに干渉してくる母親の存在を煙たがって、文句を言っていることが多くて」

母とベタベタするより、本妻候補の彼女たちと過ごす時間を優先するトロロ。皮肉なことに、この「距離」が、こじれていた関係を少しずつ落ち着かせているようです。

堅木さん:「お母さんとベタベタするよりは、彼女たちと一緒に過ごす時間が増えました。そこから関係が落ち着いてきたかもしれません」

そして、テント自身にも変化がありました。

堅木さん:「今ではほかのサルをいじめるような態度は一切取らなくなりました。本人も、怖い思いをして学習したのだと思います」

2年前に出産した息子のトップとテント。トップはトロロの弟にあたる=写真提供:高尾山さる園・野草園

■高尾山さる園・野草園:公式サイト

ライターコメント

権力を失って初めて、周りにどう見られていたかを知る。そして、痛みを経て変わっていく。テントの歩んできた道のりは、群れの「おきて」の厳しさと同時に、変化する強さも教えてくれる気がします。息子のトロロとの、近すぎず遠すぎない今の距離感も、なんだか人間の親子関係を見ているようで、つい重ねてしまいました。

<ライタープロフィル>ゆんち

2004年に産経新聞社へ入社。静岡、仙台での事件取材を経て、東京社会部では厚生労働省を担当、派遣労働問題などの社会課題を深く掘り下げる。また、特異なキャリアとして法廷画家を兼務し、数多くの法廷画を手掛けてきた。その後、産経新聞社が発行していたタブロイド紙「SANKEI EX」にてブランド、旅、食をテーマとした執筆活動を展開。南アフリカやオーストラリアなど世界各国を取材で巡るほか、臨時特派員として南太平洋のキリバス共和国への駐在経験も持つ。J-WAVE「TOKYO MORNING RADIO」にて、週1回おすすめニュースを3年間にわたり担当。

現在は2児の母となり、これまでの取材経験に加え、教育、健康、ライフハックへと関心の幅を広げている。「趣味を仕事に!」をモットーとする自称「脱力系ライター」。釣り、温泉、グルメ、そして海を眺めてぼーっと過ごす時間を愛する旅人でもある。長年、酒と旅と釣りを友としてきたが、現在は期間限定で禁酒中。新商品から旅、ファッション、グルメまで、自身のアンテナに触れたトピックを独自の視点で発信している。

高尾山さる園・野草園 関連記事

「本妻」の座を争う2頭のメスザルと優柔不断なボスザル…高尾山さる園は「深夜ドラマ」

オスは子育てしないはずなのに… 高尾山さる園「ネッシン」の赤ちゃん救出劇

3年ぶりの女の子、そして父親は… 高尾山さる園、赤ちゃん「ゲルダちゃん」の物語

Google検索で「emogram」を優先表示 ワンクリックで簡単登録

PAGE
TOP