フィリピン映画界で旋風を巻き起こした「ウリリは黒魔術の夢を見た」が8月2日から埼玉県川越市の川越スカラ座で一週間限定で上映されます。
タイトルに「黒魔術」と付くだけあってか、全編モノクロでありながら、現代的な映像美にも高い評価が寄せられています。
この作品は、フィリピン映画界で最先端を行く、時代の寵児ともいわれるティミー・ハーン氏による2018年の長編劇映画です。上映後に世界的に蔓延した新型コロナウィルスによるパンデミックで、各国での上映が危ぶまれる中、様々な国で上映され、数々の映画賞を受賞、そして、今回、満を持して、日本に上陸しました。

マイケル・ジョーダン・ウリリ
キャッチコピーは、「マイケル・ジョーダンになれと、母は血を捧げました」というもの。アメリカのプロバスケットボールリーグNBAの伝説的なプレイヤーである同氏の名前にちなんで、主人公はマイケル・ジョーダン・ウリリと名付けられたそうです。タイトルのネーミングともあいまって、どんな内容なのかとても気になりますよね。
公式ホームページによると、主なあらすじは次の通りです。「ピナツボ火山大噴火がフィリピン全土を揺るがした1991年、米軍の血が流れるひとりの赤ん坊が生まれた。間も無く母親はピナトゥボ火山の大噴火を自分たちの 手で起こしたと信じる黒魔術のもと息子に《プロのバスケ選手となりNBAで活躍する》運命を授け、自分の命を日本車ギャランに捧げる」とつづられています。
数々の文化人たちが注目するアジア映画界きっての話題作
日本国内では、今年4月に公開され、貴重な短期間上映でありながらも、各上映エリアでのアフタートークイベントでは、数々の有識者や文化人の方々がこの映画のために登壇されました。
石坂健治さん(東京国際映画祭シニア・プログラマー/日本映画大学教授)のほか、北小路隆志さん(映画批評家/京都芸術大学教授)、師田史子さん(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究科助教授)、ヤマクニキョウコさん(フィリピン映画研究・映画祭プログラマー)、辛酸なめ子さん(漫画家、コラムニスト)など、若手研究者から大ベテランまで錚々たる顔ぶれです。そうした人たちが注目した作品ということで、より興味が注がれますよね。
映画監督×若手フィリピン映画研究家のトーク
登壇者のうち、ヤマクニさんは、神戸・元町映画館でのトークイベントの際、実際にティミー監督とセッションしました。ヤマクニさんは、本作について、フィリピンの根源的なルーツを表した作品であると指摘。
「ポストコロニアリズム」(=直訳すると「ポスト植民地主義」、西洋を中心とするかつての帝国主義、植民地主義に対する反省的な態度を意味する)と、「ウータン・ナ・ロオブ」(=恩義。自分に親切にしてくれた人には恩返しする義務がある)という2点に議論が及びました。
ヤマクニさんはイベントで「ウータン・ナ・ロオブをどう描いたのか、意識的に描いたのか」と、監督本人に質問。これに対し、ティミー監督は、「意識するというより自然と出てくるもの。主人公のキャラクターもある意味フィリピンっぽいものが出てる。昔ながらのウータン・ナ・ロオブ(恩義を感じるもの)と今の時代に合わせての変化というものも描けていると思う」と答えたといいます。
「ポスト植民地主義」と、恩義を大切にする、「ウータン・ナ・ロオブ」。このあたりは、フィリピンに限らずとも、アジア圏、とりわけ恩義を重んじる日本に暮らす私たちにとっても共感しやすい言葉ではないでしょうか。
実際に鑑賞した人からの反応
既に映画を鑑賞したという人たちも、本作の感想についてSNSなどで言及しています。
「フィリピンから来たマジックリアリズム的感性の一作!」
「インディーズ映画の美味しい所とB級オカルト映画のしょっぱい所を聞いたことないフィリピンの香辛料で煮詰めたような…久しぶりに〝なんだコレ!〟となる怪作でした!」
「フィリピン映画は数えるほどしか観ていないが、どれもなかなかクラクラする無軌道っぷり。今作も黒魔術をかけられたのは観客なのか…ラリっていたのは私なのか」
「もう少し短ければと思うけど好きな世界」
「被写界深度の浅いモノクロの画面に、ウリリを取り巻く現実なのか、悪夢なのかよくわからない不思議な浮遊感でシーンを突き進み続ける」
ネット上では、映画を鑑賞した人の余韻にひたる声や、考察など様々な意見が寄せられています。ただ、コメントを読むと、とにかく、印象深い映画鑑賞体験になることは間違いなさそうですね。
フィリピンの歴史と現代、そして「家」と「血」が交錯する本作。他人事とは思えなさそうなこの映画をぜひ、川越に見にいきたいですね!
【上映情報】
上映館:川越スカラ座 8月2日(土)~ 8月8日(金)※火曜日、水曜日は休館