2月28日(土)、東京・新宿の芳林堂書店 高田馬場店8階イベントスペースにて、本の即売会「KukuriNezi(ククリネジ)」が開催されました。
本イベントは、文学賞の受賞歴を持つ、または商業出版の実績がある作家のみが参加できるユニークな即売会で、クオリティの高い作品が一堂に会する場として注目を集めています。今後は2か月に一度のペースで開催が予定されており、次回は4月25日(土)の開催が見込まれています。
企画は、ミステリ作家の森晶麿さんが手がける「ねじの市」プロジェクトの一環として実施されたもの。出展者は応募の中から選ばれており、作家同士の交流や新たな読者との出会いの場としても機能し、当日は舞城王太郎作品についての金子玲介さんによるトークイベントなども行われ、盛況のうちに幕を閉じました。
また、会場では芳林堂書店発のZINE『WasHeR(ワッシャー)』も販売されました。プロ作家たちによる多彩な表現が詰まった一冊として、来場者の関心を集めていました。
芳林堂書店発・プロ作家達によるZINE『WasHeR vol.1』

創作号のラインナップは、飛鳥部勝則さん、篠田真由美さん 、「ねじの市」「KukuriNezi」主宰の森晶麿さん、吉村萬壱さんで、書き下ろし作品を中心に寄稿されています。
気になる『WasHeR』のタイトルですが、なんと工具のワッシャーからとられたということです。
企画立案の芳林堂書店高田馬場店・山本さんからのコメント
芳林堂書店の母体である、株式会社書泉の公式発表の中で、企画立案者・芳林堂書店高田馬場店の山本さんは、こう語っています。
山本さん:「もともと本屋が担っている役割はワッシャーのようなものだと考えています。作家(作品)と読者の間に入って締結力を高め、緩み止めになるパーツ。地味で、薄くて、目立たない。でもワッシャーのように、本屋も両者にとって欠かせない存在でいたいです」
さらに、山本さんから、エモグラム編集部に対し、独自にコメントをお寄せいただきました。
山本さん:「芳林堂書店と、
芳林堂書店高田馬場店が愛するすばらしい作品の数々
芳林堂書店高田馬場店が愛する作家達がノンジャンルで執筆した小説を「お借りして」収録したというZINEだけあって、どれも短編ながら、作家の方たちの自由な創作意欲にたぎるものがほとんど。
デビュー後のプロ作家の、編集者の手がほとんど入っていないと思しき文章や言語表現を堪能できる貴重な機会です。
初手を飾るのは、推理小説向けの賞である鮎川哲也賞を受賞してデビューした、小説家・飛鳥部勝則さんの『「もう一つの檻」のもう一つの檻』。洋画家として活動されていることもあり、楽しい四コマ漫画もついているのも嬉しいポイントです。
次に、ミステリーから伝奇、ファンタジーに至るまで幅広く作品を手がけている篠田真由美さんによる『いくらで買うね?』。骨董をモチーフに、語りかけられるような文章に引き込まれます。
三作品目は、森晶麿さんの『黒猫の戯れ、モルグ街の蛮族』。タイトルからも推測できるように、エドガー・アラン・ポオの『モルグ街の殺人』に触れながら、森さんの人気シリーズに登場する『黒猫』が活躍します。
作品の世界観や物語に存分に浸らせていただいたのはもちろん、短編ながらひとつの作品としての完成度が素晴らしく、さすがはプロの作家達の文章だ…と笑顔になってしまいました。
「KukuriNezi」の開催と並行しての読書体験になったことも含め、今回、小説、あるいは小説家や、書店や市場や値付けに触れるものが多く、それらの意義について、再考させられました。
トリを飾るのは、芥川賞作家・吉村萬壱さん・独自コメントも
そして、吉村萬壱さんの『紅い華』『ニキビダニ』では、高田馬場の駅前の雰囲気や、芳林堂書店そのままが登場し、描かれます。
普段は、関西を拠点とし、また過去には徳島の阿波しらさぎ文学賞の選考委員を務めるなど、西日本に根差して活動している吉村萬壱さん。だからこそ、今回描かれる高田馬場の光景は、東京エリアの読者にとっても、かなり特別なものとなりそうです。
『ニキビダニ』にて、時代や背景が変わっても、書店通いを続ける主人公が、なぜ本を読むのか、ということが描かれる作中の締めくくりに、萬壱先生ならではの、現実と物語が地続きであるような読後感に触れ、筆者は涙してしまいました。
この度、吉村萬壱先生にも、独自にコメントをいただきました。
吉村萬壱先生:「書店に行くと自分は食べ物で、書店の新陳代謝に与り、消化され、書店の血肉となり、そして最終的に排泄物となって出てくる気がします。書店の体内を隈なく巡る楽しさ。そして思わぬ本をゲットして、黄金の排泄物となって店を後にする喜びは、ネットでは絶対に得られない最高の贅沢だと思います。」
作品を読んでいない方には、やや過激に聞こえるかもしれませんが、吉村萬壱作品、特に今回の『ニキビダニ』を読んだ方にとっては、このコメントが生み出される哲学が伝わってくるのではないでしょうか。
20歳からつけている日記の118冊目が終わった。 pic.twitter.com/8AJbHslC5b
— 吉村萬壱 (@yoshimuramanman) April 16, 2026
書店巡りの面白さを、「ネットでは絶対に得られない最高の贅沢」だと語りながらも、4月にもおそるべき万バズポストを弾き出した、吉村萬壱さん。
吉村萬壱さんは、これまでも『哲学の蠅』などを上梓し、『WasHeR』内のコメントでも、「一匹の蠅として」と自身を語っています。
世界がディストピアになって、誰一人いなくなったとしても、書き続けているような吉村萬壱先生、大変すばらしいコメントをありがとうございました!
二号目は4/25(土)に発売
芳林堂書店高田馬場店は、今回の『WasHeR』壱作目が店頭および書泉オンラインや文学フリマでも販売されることに加え、「4/25(土)にZINEイベント「KukuriNezi」にて発売予定の②号目は、 北山猛邦先生 蘇部健一先生 深堀骨先生 森晶麿先生 の書下ろし短篇を収録し、こちらも超豪華な冊子になる予定です!」と公式Xで発表しています。
4月25日(土)も、楽しみですね!
芳林堂書店のみなさま、「KukuriNezi」主宰の森晶麿先生、関わる全ての作家のみなさま、今後とも応援しております!
ライターコメント
小説を読んだあとは、なかなか現実に戻れないタイプの筆者ですが、吉村萬壱作品は、どんな奇想天外なSFやディストピアが舞台でも深く没入できながらも、いつも不思議なことに、すっと現実に戻れます。
それは、吉村萬壱先生が、いつでも現実を見つめているからこそ、物語に終始しない物語が描け、現実と地続きのような感覚を受けるからかもしれません。
「先生の作品は、物語や世界観を思い込ませる、というより、洗脳を解くような感じがあって、むしろそれは難しいことだと思うのです」とお伝えすると、「ハッとしました。確かに自分はそんな風に小説を書いてきたのかもしれない」とお答えくださった、吉村先生。一生読み続けます!
そして、そんな吉村萬壱の描く高田馬場と書店の光景を読ませてくださり、個人的にも人生で一番通ったであろう「芳林堂書店 高田馬場店」にも感謝します。今後の『WasHeR』、そして「KukuriNezi」にも期待大ですね!






