変則勤務のある職場でフルタイムで働き、次男が小学校5年生になるタイミングで非常勤に切り替えて仕事を続けたあじさいさん。その次男は、見事、東京大学に現役で合格を果たしました。東大へと子供を送り出した保護者へのインタビューから、これからの時代の子育てのヒントを探る連載『東大生を育てたおかん』。第2弾(全9回)の最終回となる今回は、あじさいさんが抱く子どもたちへの深い感謝の思いと、親子が互いを思いやる「思いやり」の心の育み方について伺います。
二人がいてくれて「感謝しかない」

このインタビューを通じて、あじさいさんの家の独自のルールや、子供の自主性を尊重する見守りの姿勢について聞いてきました。そんなあじさいさんに、今改めてお子さんたちに対してどのような思いを抱いているのかを尋ねると、真っ先に返ってきたのは、感謝の言葉でした。
あじさいさん:「子供のおかげで、こちらが親として学ばせてもらうことが多くて。今は本当に、次男にも長男にも『いい人生を送らせてもらっています』と思っているし、もう感謝しかないです」
そしてあじさいさんが強調するのは、それは東京大学への合格といったこととは関係なく、生まれてきてくれたことへの感謝だということです。
あじさいさん:「2人がいなかったら、私たち夫婦の人生は全然違っていました。子供たちには、『2人がいてくれて、お母さん、お父さんの人生は変わりました。本当にありがとう』ということを伝えたいと思っています」
福祉の現場を見てきたからこそ、日常的に話し合った「当たり前ではない生活」
周囲への感謝の心を持っているのは、親であるあじさいさんだけではありません。次男自身もまた、周囲への感謝の気持ちを常に忘れないと言います。そのような考え方が自然と身に付いたのは、なぜなのでしょうか。あじさいさんは、自身の仕事を通じた経験を、日ごろから子供たちに伝えていたことが大きかったのではないかと振り返ります。
あじさいさん:「以前もお話をした通り、私は福祉の仕事をさせていただいていますが、そこでは本当にさまざまな環境で育った方や、いろいろな事情や困難を抱えた方と接することが多いんです。自分が健康で、毎日やりたい勉強ができる環境にあることは、決して当たり前じゃないんだということ。今の生活のすべてに感謝しなきゃいけないということ。そんな話を、普段から子供たちに伝えていました」

当たり前のことは当たり前ではない
「今日、温かいご飯が食べられること」や「自分の行きたい学校に向けて勉強ができること」。それらがどれほど恵まれていて、ありがたいことなのか。あじさいさんは、自身が仕事を通じて日々実感している世の中の現実や、生かされていることへの感謝を、日常の会話の中で自然に共有していたそうです。
あじさいさん:「実際、次男を私の職場に連れて行くことがありました。そうやって、いろいろな環境で生活している人がいるんだなということを、自分自身の目で見て学んできたからこそ、塾に行かせてもらえることも当たり前じゃないんだというのを、本人も自然と理解してくれていたのだと思います」
幼い頃から母親の仕事の背中を見つめ、家庭内での言葉の積み重ねによって「今ある環境への感謝」を肌で感じて育った次男。だからこそ、塾の講習代がかかるときにも「これだけかかるんだけど、行ってもいい?」と、親を思いやる言葉が自然と出てきたのでしょう。

お互いを思いやる心が、結果として最高の自立を生み出す
健康であること、毎日やりたい勉強ができること。
それらは決して当たり前ではなく、「本当に恵まれている日常なんだ」と伝えてきたあじさいさんの信念は、しっかりと子供たちの心に届いていました。
大切なことだけを伝え、あとは子供を信じて伴走者に徹したあじさいさん。親から注がれた深い「信頼」が子供たちの強固な土台となり、自らの意思で目標に向かって突き進む「力」を育んだのではないでしょうか。
【お役立ちデータ】9割の父親が育児で成長を実感する一方、3人に1人が「孤独」に 「花まる教育研究所」が関東在住の父親223名を対象に実施した調査によると、父親の9割超(92.4%)が育児を通じて「自分自身が成長した」と実感しており、子供の成長を間近で感じることが最大の喜びやモチベーションになっていることがわかりました。しかし、育児に前向きに関わる一方で、9割以上(95.0%)の父親が日常的に「悩みがある」と回答。夫婦関係や仕事との両立など複数のストレスを抱えている実態が浮き彫りになりました。また、悩みの相談先は「妻(パートナー)」が84.8%と家庭内に集中しており、3人に1人が「孤独を感じる」と回答。さらに約1割は「相談相手がいない」と答えるなど、悩みを一人で抱え込んでしまう「令和の父親像」が明らかになっています。父親が家庭外でも弱さや迷いを共有できる、社会的な居場所づくりが今後の課題と言えそうです。
ライターコメント
「東大に合格したからではなく、2人がいてくれたからこそ、お父さんとお母さんの人生は豊かになった。本当にありがとう」というあじさいさんの言葉に、深く胸を打たれました。「今の環境は当たり前ではない」という感謝の教えは、親から子への一方通行ではなく、あじさいさんご自身が子どもたちへ心からの感謝を伝える姿そのものだったのですね。子供に「感謝のできる子になってほしい」と願うなら、まずは親自身がその姿を見せる。そんな子育てのお手本を、あじさいさんご一家の中に見た気がします。
<ライタープロフィル>ゆんち
2004年に産経新聞社へ入社。静岡、仙台での事件取材を経て、東京社会部では厚生労働省を担当、派遣労働問題などの社会課題を深く掘り下げる。また、特異なキャリアとして法廷画家を兼務し、数多くの法廷画を手掛けてきた。その後、産経新聞社が発行していたタブロイド紙「SANKEI EX」にてブランド、旅、食をテーマとした執筆活動を展開。南アフリカやオーストラリアなど世界各国を取材で巡るほか、臨時特派員として南太平洋のキリバス共和国への駐在経験も持つ。J-WAVE「TOKYO MORNING RADIO」にて、週1回おすすめニュースを3年間にわたり担当。
現在は2児の母となり、これまでの取材経験に加え、教育、健康、ライフハックへと関心の幅を広げている。「趣味を仕事に!」をモットーとする自称「脱力系ライター」。釣り、温泉、グルメ、そして海を眺めてぼーっと過ごす時間を愛する旅人でもある。長年、酒と旅と釣りを友としてきたが、現在は期間限定で禁酒中。新商品から旅、ファッション、グルメまで、自身のアンテナに触れたトピックを独自の視点で発信している。






