樹木の枝を切っていく長尾崇史さん=埼玉県川越市(小川記代子撮影)

実家の庭、どうする?空き家900万戸時代の新常識「庭じまい」が静かなブームに 

By - emogram編集部ゆんち
ライフ

「家じまい」「墓じまい」に続いて、今度は「庭じまい」?

実家の庭、最後に手入れしたのいつですか?もしかしたら、お父さんやお母さんが「庭の手入れが大変になってきた」とこぼしているかもしれません。

今、高齢化社会の中で「庭じまい」という言葉が注目され始めています。

「庭じまい」って何?

簡単に言うと、庭を維持・管理しやすくすること。手入れが大変な樹木を伐採したり、枝を詰めたり、場合によっては更地にしたりして、負担を減らします。

住みながら行う人もいれば、空き家になった実家で行われることも。家じまい、墓じまいと同様、これからどんどん需要が増えそうなんです。

「近所に迷惑かけたくない」78歳女性の決断

埼玉県川越市に住む女性(78歳)のケースを見てみましょう。

この家は女性の実父が約50年前に建てたもの。庭では柿や椿など、さまざまな樹木や草花が育てられていました。女性と夫は約20年前からこの家に住み、庭の手入れを続けてきました。

でも最近、変化が。

「脚立を立てて柿を取るのも、高い木を切るのも大変だ。今後、茂る樹木で近隣に迷惑をかけるような事態は避けたい」

そう思うようになったんです。思いを知った近所に住む息子さんが、造園業者「長尾アートガーデン」に連絡。今年2月から作業が始まりました。

柿や数本の樹木を伐採し、残す樹木も刈り込み。10月上旬、樹木が整えられた庭を見て、女性は明るい声を上げました。

「すっきりしましたね。手入れが楽になるわ」

「緑は好きだけど、先を考えると自分で世話ができる範囲にしなければと思った」と女性は話します。

月5件の依頼、ほとんどが子世代から

造園業を営む長尾崇史さんが、サイトに「庭じまい」のコーナーを設けたのは昨年のこと。庭木の撤去などの依頼が増えてきたためでした。

今では月5件ほどの依頼があるそうです。そして興味深いのは、多くが子供世代からの依頼だということ。

「親が施設に入所したので実家の庭木を伐採してほしい」「親が高齢なので手入れが簡単な庭にしてほしい」

こんな内容が多いんだとか。

長期間放置された庭は樹木が鬱蒼とし、近隣に枝や落ち葉が入り込むことも。かなり繁茂していた家で作業したときは、近所の人にも喜ばれたそうです。

気になる料金は?

平均的な一軒家の庭じまいなら10万円台くらいが目安だそうです。ただし、庭の状況や希望内容によって大きく変わるので、事前の打ち合わせは必須。

長尾さんのおすすめは「地域をよく知る地元密着型の業者」であること。不当に高額な料金を請求されないためには、見積もり(できれば相見積もり)をとって、納得できる金額でなければ依頼しないことが大切です。信頼できる人に同席してもらうのも、トラブル防止になります。

思い出を次世代につなぐ取り組み

庭の樹木には、思い出が詰まっていることが多いんです。「この子が生まれたときに植えた」という記念樹もあります。

長尾さんは、庭じまいでやむを得ず伐採した記念樹や思い出の樹木から木工製品を作る取り組みを始めました。

「家族の記憶を次世代につなげていければ」

捨てるだけじゃない、こんな選択肢もあるんですね。

空き家900万戸時代、庭の問題は深刻

実はこの問題、思っている以上に深刻です。

総務省の2023年調査によると、空き家は約900万戸。この30年間で2倍に増加しています。そして空き家のうち約9割が一戸建て。つまり、ほとんどに庭がついているわけです。

国土交通省の調査で、空き家を管理する上での心配事を聞いたところ、「樹木・雑草の繁茂」が58.0%で2番目に多い回答でした。

「親世代は何とか管理していても…」

空き家問題に詳しいファイナンシャルプランナーの牧野寿和さんは、こう説明します。

「親世代は何とか庭を管理していても、子供世代は実家の庭に関わっていない。定期的に通って手入れをするのも荷が重くなる」

これ、実感ある人も多いんじゃないでしょうか?

空き家の庭を放置すると、枝が伸びたり、虫が発生したりして近隣に迷惑をかけることもあります。牧野さんは「空き家の使途を早めに決め、そこに向けた対応を庭にもする必要がある。ある程度のお金がかかることは心得ておくべきだ」と言います。

まとめ:若い世代も、そろそろ考えどき?

「実家の庭なんて、まだ先の話」と思っているかもしれません。でも、親が元気なうちに、一度話し合っておくのもいいかもしれません。

庭の手入れ、実際どう感じているのか。将来的にどうしたいと思っているのか。早めに知っておくことで、いざというときに慌てずに済みます。

お盆や年末年始、実家に帰ったとき、庭を眺めながらそんな会話をして「庭じまい」という選択肢があることを知っているだけでも親世代は少し安心するかもしれません。

この記事のポイント💡

  • 「庭じまい」は庭を管理しやすくする取り組み
  • 依頼の多くは子世代から、月5件ほど
  • 平均的な一軒家で10万円台が目安
  • 空き家の約9割が一戸建て、庭の管理が課題
  • 記念樹を木工製品にする前向きな選択肢も

ライターコメント

私の実家にも庭がありますが、最近は帰省したときにちらっと見るくらい。でも、親が高齢になり、手入れが大変そうなのは何となく感じていました。「庭じまい」という選択肢があるのを知って、次に帰省したときに話題にしてみようかなと思います。記念樹を木工製品にするアイデア、素敵ですよね。

Related Article